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4月のある夜のことだ。平で村岡寛さんに会った。寄り合いのあとだったようで、少し酔っていた。そのとき、菅波任さんの死を知らされた。「1年前に亡くなってたんですよ。悲しいですね。彼は原発事故を、いまのいわきをどう感じていたんでしょうか」。村岡さんは無念の表情を浮かべて、そう言った。久之浜と四倉。乗降駅は違ったが、高校では同学年で、同じ列車で平まで通
っていたという。次の日、村岡さんは菅波さんに関する資料を編集室まで持ってきてくれた。
菅波任さん。「つとむ」と読む。なかなか読んでもらえないせいか、「菅波つとむ」を使うことも多かった。痩身、そして長髪にひげ面
。和製キリストのような容貌をしていた。しかも、いわき生態農業研究会のメンバーで、エコ生活の実践者。環境活動にも熱心に取り組み、その発言は論理的だった。四倉町栗木作に太陽光発電を取り入れたリサイクルハウスを造り、何回か記事になった。いまから18年も前の話だ。
残念ながら取材する機会も、会って親しく話すこともなく時が過ぎ、聞くとはなしに「カナダに住んでいるらしい」という噂を耳にしていた。そして、唐突に訃報が届いた。東日本大震災の直後、昨年の4月18日に、カナダのビクトリアで亡くなったのだという。享年61。死因は肺がんだった。
菅波さんは一貫して高圧送電線網から離れる「オフ・ザ・グリッド」を提唱し、実践していた。地方につくられる大規模発電所。そこで生まれた電気を都会に送るための送電線や鉄塔、変電所。それによって生じる電磁波公害、放射能漏れの不安…。その、巨大システムの呪縛から解き放たれるには、大規模集中発電から小規模分散発電へと移行していくしかない。
「電気料金を払うということは、原発を暗黙のうちに認めることになる。そのためには自ら太陽光発電で電気を起こし、自然にのっとった生活をする必要がある。昼も夜も同じように活動して電気を消費する生活は、人間本来のリズムに合わない。太陽光発電は植物がやっていることと同じで、環境、自然にやさしい究極のエネルギー。1人ひとりが現状をきちっと認識して、意識改革を図らなければならない」
菅波さんは、そう言い続けた。
宮沢賢治に憧れ、賢治と同じエスペランティスト(共通言語・エスペラント語を使う人)になった菅波さん。その眼差しがいかに未来を見ていて、現代に矛盾と危うさを感じていたのかが、いまだからわかる。カナダへの移住も、ひょっとしたら、八方塞がりの日本に対する失望や絶望があったのではないか、と思わざるを得ない。
モルヒネによる幻覚が襲うなかで原発事故を知った菅波さんは愕然とし、いわきにいる弟には「4日ぐらいはヨウ素に注意するように」と言ったという。
菅波さんの思想そのものとも言える四倉町栗木作のリサイクルハウスはいまも、畑のなかにぽつんとある。
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