「オールいわき」が前提の音楽会なだけに、ソリスト探しでも苦労した。ソプラノの大倉由紀枝さん、バリトンの松本進さん、テノールの吉田功さんは、それまでもいわきでコンサートを開いていただけに、ある程度スムーズに決まったが、アルトが見つからなかった。
音楽関係の伝手を使って探したところ、父の仕事の関係で転校生活を送り、卒業は安積女子高だが磐城女子高にも在籍したことのある畑和子さんはどうか、という話になった。本人に打診して快諾がとれたことから、決定。4人が出そろった。2月15日と本番前日の2月22日、会場となる平市民会館でソリストと交響楽団を交えての全体練習を行い、準備がほぼ整った。
大倉さんは「いわき市の20歳の誕生日を祝うには最もふさわしいイベント。この日が来るのを待っていた。ワクワクしている」と話した。
オーケストラと合唱団を合わせて計800人があがるステージも3日間の突貫工事で完成した。特に30センチ幅で8段という鉄パイプ製のひな壇は、地元に設置できる会社がなくて苦労したが、仙台の大林組が引き受けてくれて事なきを得た。入場の仕方・並び方もカードを渡して何回かリハーサルをし、スムーズに入退場できるようになった。あとは本番だけ。全員が緊張していた。
2月22日午後1時。開場前に300人の行列ができ、平市民会館の客席はびっしりと埋まった。2時、ついに開演。ステージに全員が揃っている。総勢800人。それは壮観だった。
合唱指導者の1人・石河清さんによる、観客席を巻き込んでの合唱指導が始まった。いわき市歌と第九の合唱部分をみんなで歌うと会場が和んだ。そして本番の第九交響曲が始まった。
運営の中核的な存在だった寺主君男さんは、裏に回ってパイプひな壇の状態を何度もチェックした。以前にテレビで見た事故のことが頭をよぎった。「ひな壇が崩れたら大変なことになる。何とか無事で」と祈った。
第四楽章の合唱部分が始まり、バリトンの松本さんの声が会場いっぱいに響き渡った。1年間の練習の成果
を披露するときがやってきた。それぞれの人生を彩るそれぞれの第九を、全員が精一杯歌い上げた。ボイコさんが客席を向いてタクトを振った。参加者も観客も第九でひとつに繋がった。終わった瞬間、平市民会館は大きな拍手に包まれ、感動があふれた。平市民会館が1つになっていた。
実行委員長の馬目さんは演奏終了後、招待客の1人である・畠山郁夫・磐城共立病院長に声をかけられてこう言われた。
「正直感動したよ。これまで天国への橋渡しをする崇高な役割ができるのは、医者しかいないと思っていた。音楽家なんて河原乞食の一種だ、ぐらいしか思ってなかったんだ。でも考えが変わった。きょうの演奏を聞いて、天国への橋渡しができるのは芸術家なんだと思った。これからは協賛するよ」
馬目さんはその言葉を聞きながら、いろいろあったが、手づくりの市民参加でやって本当によかった、と思った。そしてスタッフたちに感謝した。
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