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無農薬野菜を栽培している 佐藤吉行・登志子夫妻 
 中国産冷凍餃子の農薬問題が食に対する不安を増幅させている。低い受給率のなかでのごまかしが横行し、消費者自身が安全な食をどう確保するのかも厳しい現代。揺らいでいる食の信頼を回復するのは可能なのか、次善の策とは何なのか…。さまざまな取り組みを通して食を考える。


 佐藤さんが無農薬で野菜を作り始めて21年になる。6月から10月までは草との格闘。雑草が背丈まで伸びて何がなんだかわからなくなる。自然相手なだけに、さまざまなことが起こる。だからいつも出来がいいとは限らない。それでも続けて来たのは「佐藤さんの野菜は甘くてうまいね」というお客さんの声だ。それがものを作っているものしかわからない醍醐味だという。
 遠野町入遠野字天王。高台で陽当たりのいい場所に佐藤さんの家がある。代々が農家で、かつては養蚕で栄えた家だった。小学2年の時に戦争で父親を亡くし、祖父が戸籍上の父になって一緒に農業と取り組んできた。昭和50年には登志子さんと結婚し、それからはまさに二人三脚の人生となった。
 モモやクリの木を切って葉たばこを始め、それがだめだとなると養豚に鞍替えした。最初のうちは子豚を買って育てていたが、繁殖も手がけるようになり、豚の数は350頭にまで増えた。しかし市内に60戸あった養豚農家は、悪臭渦に巻き込まれて数を減らしていく。養豚をしていた仲間にさえ「豚小屋が臭い」と言われ、身の置き所がなくなった。指導機関を頼ってやっていたら借金が1600万円にまで膨れ上がり、返済もままならなくなった。これではだめだと思った。
 もともと有機農業や無農薬には関心があった。有吉佐和子の『複合汚染』などを通して食の安全を担う者としての自覚が大きくなり、長野へ研修に行った。養豚と並行して化学肥料を使わない有機農業とも取り組んではいたが野菜が売れず、もがき苦しんでいた。そうした時期に「いわき生態農業研究会」と出会うことになる。
 会では無農薬や有機肥料で野菜を作っている人たちがヨーロッパスタイルの朝市を仕掛け、希望者には宅配をしていた。毎日曜日、平のレンガ通りには生態農研の「百姓の市」が立ち、野菜が並んだ。無農薬野菜は見栄えは悪いが、直売なので新鮮で野菜本来の甘みがある。最初のうちはまばらだった客も口コミで集まるようになり、低農薬や有機より、無農薬野菜が飛ぶように売れた。そこで「消費者が望んでいるのは無農薬」であることを改めて自覚したメンバーたちは、さらに無農薬野菜の栽培研究へと突き進んでいく。
 そこは農業者同士の交流・研究の場であり、消費者と直接ふれあえる場だった。試行錯誤の末に無農薬野菜を作り、それぞれの野菜を支持してくれる客の家に宅配する。さらに「らでぃしゅぼーや」という中央の会社と契約を結び、野菜を卸す。そんなことをしながら野菜の評判が上がり、ほぼ10年で借金も返し終えた。

 佐藤さんは4年前から、遠野町深山田にあるペンション「メゾン・ド・モンペール」の向かいに直販所「山さと農園」を開いている。生態農研の活動が突破口になり、市内のあらゆる所に新鮮野菜や有機栽培をうたい文句にする農家や生活改善グループによる直売所ができ始めた。それと歩調を合わせるように生態農研の活動は、会としてではなくそれぞれの会員に委ねられるようになった。「山さと農園」には佐藤さんの無農薬野菜のほかにも干物やシイタケなどが置いてあり、そこには「安心で安全」という佐藤さんの思想がある。
 土づくりから始める佐藤さんの農業。「あそこに何を植えようかな」と考えるときが一番楽しい。一般的に「百姓は大変」と思うかもしれないが、暗いイメージはない。確かにアクシデントはあるが、よくできたときには何にも代えられない喜びがある。

 「そりゃ、長く百姓をやっていれば生きていた土が死んだこともある。微生物が全滅しちゃって。でも、そんなときはあきらめが肝心。大根一本で勝負しているわけだから、そこに人間らしく生きている、という自信と誇りがないと。自給率がどんどん下がって、こんな馬鹿な国があっていいのかって思うね。だから補助金にぶら下がる“乞食百姓”にだけはなりたくねぇ、と思ってる。贅沢する気はねえんだ」佐藤さんの言葉は熱い。


 佐藤さんの直売所「山さと農園」は水、土、日曜オープンで、開業時間は午前11時から午後5時まで。



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