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 天気のいい昼下がり、ガラス越しに通りを眺めながら、その店の料理を待つ時間が好きだった。ガラスの向こうのまちはどこか違うところのようで、そんな気分のまま、運ばれてきた旬のパスタを食べる。そしてデザート。しあわせ気分になってドアを開け、もとのまちに戻っていく。平の南レンガ通 りのイタリア料理店「オステリア チボ・ディ・バッポ」はそんな店だった。

 オーナーでシェフの木下徹さん(36)はこの春、店を5月いっぱいでやめる、決心をした。4、5年前から心のどこかにうっすらあったことだが、方法を探りながら何とかこれまで続けてきた。しかし、ラトブができて南レンガ通 りを人が歩かなくなり、それにこのところの物価高。決断しなければならない時が来たようだった。桜の花のころの長雨が、ぐいと背中を押した。
 大黒屋百貨店がなくなって、通りを歩く人の姿は極端に減った。それでも点在する店がそれぞれに頑張ってきた。しかし何軒かの店がラトブに移り、南レンガ通 りは本当のまちはずれになった。ラトブに来る人はラトブだけで終わってしまう。いわき駅方面 から木下さんの店に歩いて来る人はあまりいない。

 10年前、木下さんは3年間のサラリーマン生活に終止符を打って店を始めた。特別 でない日常の、季節の旬の食材を使ったイタリア料理。なるべくイタリア産の食材を手に入れ、イタリア料理らしいイタリア料理を心がけた。
 自分のスタイルを見つけるまで、試行錯誤の連続だった。8年ほど前、講習会でイタリアンの名手・小林幸司さんと出会い、自分の料理が少しずつわかり始めた。最小限の食材で、食材を最大限発揮できる料理。そこにたどり着くまで、出会ってから5年かかった。
 イタリア料理は日本料理と似ている。繊細で無駄がない。木下さんは毎日1つ、何か新しいことを覚えるよう、自分に課してきた。料理を作っている時にしあわせを感じ、料理のことを考えているとイメージは深まる。イタリア料理は1番の表現手段という。
 イタリアから帰ってきたシェフの料理を食べ歩き、イタリア語の本を読み、料理の深みは増した。ワインも勉強し、料理との相性のよさを伝えてきた。

 お店を始めたころ、まちはまだ活気があり、明るく、みんなで何かをしようという雰囲気があった。残念ながらいまは、バラバラな感じがする。木下さん自身も勢いだけで頑張れた時を通 り越した。
 「いわきでちゃんとしたものをやろうとすると難しい」と話していた人がいたが、どうなのだろう。いわきのまちを眺めると、イタリア料理の店は増えているし、長続きしているようにも見える。ただ、まちのなかの駐車場を持たない個人店はつらい、という。
 いろいろ誘いはあるが、これからのことはまだ決めていない。できればまちなかで、大人のイタリアンレストランをしたい、と思っている。  そして、南レンガ通りに面したいまの店は、奥さんの康子さん(40)がスイーツとカフェに変えて続けていく。店の名前は決めてある。「ブオ・ティマ・ブォーニ」。不格好だけれどおいしいメレンゲ菓子からとった。



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