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昨年の暮れ、従姉が亡くなった。57歳だった。乳癌の末期で、気がついたときには癌が全身に転移していて、手のつけられない状態だった。肝臓への転移がそうさせたのか、死の床に横たわる従姉の顔は、エジプトの土のような色をしていた。
「『yesterday』って知ってる」。中学生のころだろうか。大学を卒業したばかりの従姉に尋ねられたことがある。ビートルズの曲のことだとは思ったが、あまりに唐突だったので、「うん」と言うのが精いっぱいだった。会話はそこで止まり、従姉が何を言おうとしていたのかは永遠の謎となった。
通夜、葬儀と進み、明るく前向きに生きた従姉の思い出が涙とともに語られた。そのたびに、十歳年上の従姉とのやりとりがフラッシュバックのように浮かんでは消えた。そして、納骨のためにバスに乗り込もうとしたとき、セリーヌ・ディオンの「タイタニックのテーマ」が会場いっぱいに響き渡り、お別
れのクラクションが、悲しみに沈む心を切なく締め付けた。
久世光彦に『マイ・ラスト・ソング』という本がある。「自分は末期の床で何を聴きたがるのだろう」という発想から生まれた。そして、それを読みながら思った。
「従姉のラストソングはyesterdayだったんだろうか」
中之作という小さな海辺の町の裕福な家に生まれ、高校、大学時代を東京で過ごした。周りに勧められるままに見合いをし、平凡な結婚をした。表面
的にはそんな淡々とした人生を送った従姉だったが、その心の奥底にあったもの、それは何だったのか―。
あの、流麗でちょっぴり悲しい「yesterday」のメロディが流れると、そんな思いが、印象深かった従姉の眼差しとともに体中に染みわたる。
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