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不便さのすすめ

 昨年の夏、スイスを旅した。ベルニナ・アルプス、マッターホルン、アイガー、メンヒ、ユングフラウ、モンブランなど4000メートル以上の山々とハイジの山を、氷河特急や登山鉄道、バス、ロープウェイを利用して巡った。高山植物の花の時期で、かわいい花々やマーモットを見つけ、トレッキングも楽しんだ。

 ジュネーブなど大都市は木曜日だけ午後8時まで延長しているが、スイスは飲食店を除き、お店の営業は午後6時まで。自動販売機も駅にお菓子の簡易なものがあるだけ。日本ならスーパーは午後10時ぐらいまで開いているし、コンビニエンスストアや自動販売機もある。初めは不便さを感じたが、数日、滞在していると、そのポリシーを感じ、不便さが心地よく思えた。
 マッターホルンのまち「ツェルマット」では自然を守るため、昔からガソリン車など内燃機関の車両の通 行を禁止している。緊急車両以外でまちのなかを走るのは電気自動車と馬車、ソーラーバス。自家用車は手前の駅の駐車場に置いて、ツェルマットへは鉄道やタクシーを利用するしかない。

 日本ではこれまで、便利さの追求が豊かさの一つの指標のように思われてきた。もちろん技術の進歩は不可欠だろう。でも便利さの追求に際限はなく、そこまで必要かと思う便利さも多々現れている。確固とした大切なものが、揺らいでいるからかもしれない。
 伝えられているように年々、少なくなっている氷河。スイスでさえ、山には冬スキーの人工雪を作るためのプールが造られている。2日間過ごしたツェルマットを出ると、車の走音がうるさく聞こえた。気づかないが、わたしたちは日ごろそういうなかで暮らしている。難しくない不便さのすすめを心がけたい。
 
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(大越 章子)




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