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村岡花子さんのこと

 小学生の時に初めて『赤毛のアン』を読んでから、アンシリーズを繰り返し読んでいる。何度読み返してもその時々、新しい発見があって、幸せ気分になり、シリーズ最初の『赤毛のアン』の文庫はいつもバッグに入れている。
 「いまは曲り角に来たのよ。曲り角を曲がった先になにがあるかは、わからないの。でも、きっといちばんよいものにちがいないと思うの」。アンの魅力は、もちろん作者のルーシー・モード・モンゴメリによるところが大きいが、日本でこれだけ愛されているのは村岡花子さんの名訳があってこそ、と思っている。
 友人でカナダ人宣教師の女性が戦争の足音がする日本から帰国する際、村岡さんは「いつかまた平和が訪れる。その時、この本をあなたの手で日本の少女たちに紹介して」と手渡された。それが『赤毛のアン』だった。  日本は昭和16年に開戦。その2年後、村岡さんはジフテリアに感染し、療養の日々のなか、原稿用紙を集めて翻訳に取りかかった。「平和な時を待っているのではなく、いま、これがわたしのすべきこと」。黒い布をかぶせたスタンドのそばで訳し、空襲警報の際には風呂敷に包んで抱きかかえて防空壕に入った。アンの言葉に励まされ、平和が訪れることを信じて翻訳を仕上げた。
 しかし、出版されたのは7年後の昭和27年、三笠書房からだった。たちまちベストセラーになったという。詳しくは孫の村岡恵理さんの『アンのゆりかご』(マガジンハウス)に、村岡さんの生涯とともに書かれている。アンファンにとっては抱きしめたくなる本で、「1冊の本が幸福な家族を養う種となり、将来、女性たちが健全に暮らせる環境へとつながってほしい」という、村岡さんの思いにふれられる。
 この夏、『赤毛のアン』の原書の読破を自分への宿題にしたが、さっぱりはかどらないまま秋を迎える。

 
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