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イラスト 若松 光一郎  
 原 しのぶ

 私は田舎が好きだ。自然の中でゆっくりと流れていく時間。鬱蒼とした木々の緑や、遠くに青い山々が連なる広々とした風景。稲の穂が実る黄金色に輝く田んぼ。時折、道端の白や黄色や薄紫の名も知らぬ 可憐な花々が風にそよぐ。いつの頃からそこでずっと人々の暮らしを見守ってきたんだろう。苔生した小さな石の仏様。ほっと心を和ませてくれる安らぎの原風景そのままの田舎が第111号「特集・Street Story 差塩編」にはあった。

 写真でひときわ目を引いたのは、野球帽を被ったお地蔵さんと石に彫られた古びた仏様。昔の日本人の素朴な信仰心と優しさが伝わって来て、思わず顔がほころんだ。…と、ここでイラン人の生徒との会話を思い出した。ある時、教室でこんな質問をされた。「日本人はなぜよくお墓に行くんですか? 日本人は宗教に熱心なんですか?」突然の思いがけない質問に「いや、それ程でも…」などとシドロモドロ答えつつ、心の中で(敬虔なイスラム教徒に日本人の信仰心の厚さを感心させるほどの事っていったい何?)と脳ミソをフル回転させていると、彼は状況を説明し始めた。

 建設現場で働く彼が毎日仕事を終えて事務所に戻ると、よく社長は声を掛けてくれるそうで、必ず「おっ、元気が? 今日ははがいったが?」と聞くのだそうだ。自分が現場で仕事をしていたのは知っているはずなのに、社長も妙な事を聞くもんだなと思いながらも彼は「いいえ、行ってません。」と答える。そうすると社長は「ん、そうが。まあ明日は頑張れよ。」と言ってポンと肩を叩いて去っていく。
 ただそれだけの事だが、しかしこう度々何度もお墓に行ったかどうか尋ねられると、なぜそんなに墓参りに拘るのか不思議で仕方がないというのである。…もうお分かりですね。「はかいく」一般 的な表現では「はかどる」。つまり社長は「今日は仕事がはかどったか?」(うまく行ったか? 順調に進んだか?)と聞いていたのだ。

 古い民具のように、今ではもうあまり使われなくなった言葉が田舎ではまだ生きていて、突然ひょっこり顔を出しては楽しませてくれるのである。
 ブラボー! 日本語万歳!
(日本語教師)

 特集「高校のいま」、2回にわたって連載しました。各高校の校長を取材して感じたのは、教育そのものが国や県の方針のもとに変貌し、それぞれの存在意義も変わっている、ということでした。学校の思惑が必ずしもその通 りには行かず、保護者もその場その場で戸惑う。そんな現況も実感しました。
 教育は時間がかかるものです。そしてそこには、揺るぎのない普遍的な思想がなければなりません。そのベースをかたちづくれるのは、先生と生徒の厚い信頼以外にはないと思います。
 NHKの土曜ドラマ「フルスイング」の主人公のモデルとなった高畠導宏さんは日本プロ野球界の名コーチでしたが、そのモットーは「教えないこと」でした。教え子を見守り、本人が気づくまでじっと待つ。そのゆとりが指導者に求められているような気がします 。

(編集人 安竜昌弘)



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