005回 ミモザ館(2004.3.31)

大越 章子

 

画・松本 令子

春を告げる黄色の妖精たち

ミモザ館

 いわき市遠野町深山田でペンション「メゾン・ド・モンペール」を営む谷重勉さん(73)と実余さん(66)夫妻の庭に、春の到来を知らせるミモザの花が咲いている。今年は例年より1カ月ほど早い2月初旬ごろから開き始めた。黄色の春の妖精たちが庭いっぱい歓びのダンスをしている。
 ミモザは別名「アカシア」と言われ、たくさんの種類がある。谷重さんの庭に咲くのは“銀葉アカシア”。勉さんが60歳で勤めていた会社を辞めて、平成4年に東京から遠野に越してきてペンションを始めた時、「これは初代、これは幸代」と、2人の娘たちが好きな3年もののミモザを植えた。
 黄色の小さなまり形の花がどんどん枝先に広がって咲くミモザ。花言葉は「幸せはどんどん成長する」で、イタリアでは3月8日の「女性の日」に男性がお世話になっているすべての女性に贈る花でもある。初代さんたちはフランスのニースでミモザ祭を見て以来、この花が大好きになった。
 その初代さんは9年前、34歳の若さで亡くなった。ペンションのオープンを間近にしたころ体調を崩し、病院の検査で脳腫瘍が見つかった。手術をして元気になり、退院後に結婚した。その幸せもつかの間、翌年には再発し、帰らぬ 人となった。ミモザの花が咲くと、谷重さんたちは東京・あきる野市の高台の墓地に眠る初代さんのところへ花を持って訪ねる。
 谷重さんの庭にいまミモザが20本、道路を挟んだ向かいの駐車場には10本植えられている。この時期、ペンションのティルームではミモザに会いに訪れた人々が思い思いのお茶を飲みながら春に浸る。例えば、つぼみ入りの紅茶と桜のシフォンケーキ。実余さんが作るケーキは季節の味がする。
 ミモザの次にはチューリップ、ハーブ、ルピナスと、谷重さんの庭は季節とともに表情を変える。どの季節のどの植物もいとおしく育てているが、庭が眠りから覚めて最初に咲くミモザは特別 。満開になると、ペンションと住居は黄色の花に包まれる。

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