029回 香ばしいにおい(2007.7.15)

大越 章子

 

画・松本 令子

焼きたてパンを朝食にする贅沢

香ばしいにおい

 大久町小久字極楽沢に「冥加 薪窯ぱん工房」はある。れんがと石、鉄で手づくりした薪窯のある店兼工房で、菜花功子さんが3年前に始めた。
 極楽沢は功子さんの母の故郷。田舎暮らしにあこがれ、定年後に移り住んだ両親の世話をするため、功子さんも平成6年に横浜から越してきた。パン作りの基礎は横浜時代に学び、薪窯で焼きたいとずっと思っていた。両親をそれぞれ看取り、それから工房を開いた。

 必要な素材だけでしっかり作るパン。薪窯ならではの、表面のこんがり焼けた皮に味があって、なかはふわふわでおいしい。自然の法則で、夏はすぐカビが生えるけれど、冬は1週間おいても平気という。
 お店は金、土、日曜の週3日間。朝から行列ができる土、日曜、功子さんは午前3時に起きて準備し、6時ごろから焼いて、できた順に販売している。開店は10時半だが、金曜日でも9時ごろから売り始め、売り切れた時点で営業を終える。
 始めたころは食パンとあんパン、ぶどうパン、くるみパン、ライ麦パンと種類は少なかったが、いまは15種類ほどに増えた。1日に使う小麦粉を13キロと決め、そのなかでさまざまなパンを焼いている。
 だから食パンは10斤、くるみとぶどう、いちじく、それに砂糖の代わりにはちみつを使ったはちみつパンなら17個と、それぞれ数が限られている。薪窯が小さいので、量産はできないし、作る功子さんにとっても無理のない数という。
 薪窯で焼くパンは薪がいのち。やわらかく、温かい火が発酵させた小麦粉を生きものにし、焼きあがりには薪のにおいをパンに残す。そのにおいが香ばしい。この3年、作り方は変えていないが、よりおいしくするためのパンづくりを日々、考えている。

 行きつけの美容室で薪窯ぱん工房のことを聞いて、このあいだの土曜日、シーズン最後のジャムをつくるためにいちご農園に出かけたあと、ぱん工房を訪ねた。時間は午前11時。朝の行列のことは知らなかったから、お昼前のいい時間だと思い、食べたいパンをあれこれ頭に浮かべた。 
 でも、いいにおいの工房にあったのは、あんパン4個だけ。「あとはないんですか?」と少し頑張ると、予約でいま焼いている食パンなら一斤だけ余裕があるという。森林浴をしながら焼きあがるのを待ち、焼きたての熱々食パンとあんパン4個を買った。帰り車はとりたてのいちごの甘いにおいと、香ばしいにおいが充満した。
 昼食はその熱々食パンと、帰り道に立ち寄った直売所で買った新鮮な野菜、それにコーヒーとヨーグルトのシンプルメニュー。頬ばりながら、いわき暮らしの食の楽しさを感じた。
 以前から、朝食前にパン屋さんに行って、できたてのパンを食べたいと思っていた。今度は休日の朝、工房に出かけ、朝食用のパンを買って来よう。休日らしい朝食になる。 

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