031回 アップロード(2009.10.15)

大越 章子

 

画・松本 令子

赤い実がたくさんなった秋は格別

アップロード

 鞄にC・W・ニコルの『りんごの花さく湖』を入れて、9月、長野の黒姫高原に出かけた。黒姫山と野尻湖、そこに暮らすC・W・ニコルが結びついたのだろう。C・W・ニコルの友人のひいおじいさんがりんごと桜の木を植え、のちにダムに沈んだ美しい谷あいの物語、それも児童書なのだが、出発間際、とっさに本棚から連れ出した。
 黒姫高原の見事なコスモス畑を縦横無尽に歩いたその晩、ガイドブックを眺めながら翌日のスケジュールを考えた。「まず善光寺に行こう」。地図でホテルからのルートをたどってみると、途中にアップルロードがある。どっしりかわいらしい黒姫山とりんご畑、突き抜ける一本道。そんな風景を浮かべながら眠りについた。
 アップルロードが好きなのはアン・シャーリーの影響かもしれない。初めてブライト・リバー駅に降りて、マシュウの馬車でグリン・ゲイブルスに向かう途中、400メートルほどのりんご並木を通る。季節は6月。巨大なりんごの木々はぎっしり枝を差し交わし、雪のような花が長い天蓋のように続き、その並木道にアンは「歓喜の白路」と名づけた。
 アンの物語のなかで印象に残る一シーンで、ずいぶん前の春に通った、岩木山のすそ野まで続く青森のアップルロードがそんな雰囲気だった。車の窓を全開にして、雪の頂のそびえる岩木山と、どこまでも続くまっ白な花を眺め、半年後の秋の風景を想像した。
 花の時期もロマンチックですてきだが、赤い実がたくさんなった秋のアップルロードは格別だ。花巻のアップルロードは素朴で、片隅に木製のりんご箱が置いてあった。そばの空き缶に50円玉をぽとり落として一個取り、ハンカチでさっさっとふいて丸かじりしながら、りんご木立を歩いた。
 昨秋は仕事で訪ねた天栄村で、国道118号を羽鳥湖方面に車で走り、鳳坂峠へ上る手前で小さなアップルロードを見つけた。道端で柳沼りんご園のまちこさんが、とりたてのりんごを売っていて、ジョナゴールドを7個買った。その2週間後、休日に茨城のアップルロードを訪ね、りんご畑もいくつかはしごしたが、観光地化されすぎていて楽しめなかった。
 「りんごは黙っているから、1つ手を抜くとあとで答えが返ってくる」。天栄村のまちこさんは、そう話していた。おまけにもらった別袋のりんごもとてもおいしかった。秋が深まるなか、どこかアップルロードに行きたいと思うと、まちこさんの顔が浮かぶ。

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