032回 コンフィチュール

大越 章子

 

画・松本 令子

昔ながらのジャムとひと味違う

コンフィチュール

 コンフィチュールという言葉を、菓子研究家のいがらしろみさんに教わった。フランス語で砂糖煮、いわゆるジャムのことだが、語感的に上品なフランス菓子をイメージする。ろみさん自身、コンフィチュールはフランス菓子につながるエスプリがたくさん詰まったフランスの菓子文化の一つで、作りながら日常のなかに小さな喜びを生む確かなしあわせを感じるという。
 3年前、秋の鎌倉を歩いた時だった。源氏山から福寿寺へ下り、大佛次郎、高浜虚子のお墓参りをして、今小路通りを歩いていた。そこでスプーンマークのすてきなお店を見つけた。何屋さんかもわからないまま、雰囲気に誘われてなかに入った。それが、ろみさんのジャム専門店「Romi-Unie Confiture(ロミ・ユニ コンフィチュール)」だった。
 さほど広くないスペースに、シンプルなジャムの小瓶が並ぶ。すべて手作りで40種類ほど、季節によってメニューは変わる。ガラス越しに見えるジャム作りのアトリエ、ゆっくり流れる時間、説明書きを読みながらジャムを選ぶ女性たち、安心感を漂わせるろみさん。その空間にどっぷり浸かって好みのものをいくつか選んだ。
 ろみさんはフランス菓子を勉強していくうちに、いろいろなコンフィチュールに出合った。「昔ながらのジャムとはひと味違う新感覚のもので、果物同士やハーブ、スパイス、お酒などさまざまな素材を組み合わせることで無限のおいしさが楽しめる」と書いている通り、ろみさんのジャムはどれもおいしさが格段に違い、たちまちファンになった。
 後日、ろみさんのレシピ『果物でつくるコンフィチュール』(NHK出版)を購入した。20種類ほどの果物の基本と応用のジャムレシピが載っている。例えば、りんご。基本の材料はりんごとりんごジュース、グラニュー糖、レモン汁。応用になると、シナモンパウダーやバニラビーンズを加えたり、アールグレイの茶葉を入れたり、はちみつを使ったり。
 作り方はいたって簡単で、果物の切る大きさを考えたり、材料はゴムべらを使ってよくまぜ、煮詰める時は焦げつかないように底を絶えずかき混ぜるなど、心配りがおいしさを増す。レシピを眺めていて、ろみさんが小瓶で売る理由がわかった。保存料など一切使っていないので、おいしく食べられる時間なのだろう。瓶を持参すると、量り売りもする。 
 先日、昨年も立ち寄った天栄村のりんご園でスターキングを買った。りんごを売っているまち子さんは必ず「何か袋を持っている?」と聞く。バッグに入っていたエコバッグを手渡すと、おまけのりんごをたくさん入れてくれた。
 そのりんごでジャムを作った。煮詰めていると甘い香りが家中に漂い、お菓子作りはいつもそうで、やさしいいい時間が流れる。まだまだ基本ジャムでコンフィチュールにはほど遠いけれど、次は柚子でチャレンジしようと思う。

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