043回 アリエッティ

大越 章子

 

画・松本 令子

工夫を凝らした丁寧で豊かなくらし

アリエッティ

 手のひらにのるほど小さな女の子のくらしを、東京現代美術館で体験した。女の子の名前はアリエッティ。スタジオジブリの映画「借りぐらしのアリエッティ」の主人公で、東京郊外の古くて大きな屋敷の床下に両親と暮らしている。 
 エスカレーターで美術館の三階まで上がり、巨大な鉄格子の通風口をくぐる。通 風口は屋敷の庭と床下をつなぐ玄関で、がらくたに隠れた奥に、アリエッティたち家族の住まいが再現されていた。
 庭から摘んできた植物であふれるアリエッティの部屋、明るく清潔で居心地のいいキッチンリビング、さまざまな工具が並ぶお父さんの部屋、食料庫や水汲み場。床下の家を歩き回っていると、映画の記憶と目の前の風景が重なり、アリエッティの日常を細かく想像する。
  借りぐらしとは、人間が暮らす床上の住まいから生活に必要なものをそっと借りて暮らすことで、実に上手に借りてきたものを使っている。かわいい紅茶の缶 を利用した洋服たんす、植木鉢のかまど、ワインの空き瓶で太陽の光を取り込み、使い古しの切手は額に入れて飾る。
 すべてがそんなふうで、決して便利で快適な生活ではなく、人間に絶対見られてはいけないという掟もある。でも使い勝手がいいように自分たちで工夫を凝らしたくらしは楽しく、丁寧で豊かで、生きることと真摯に向きあっている。
 原作の『床下の小人たち』の著者、メアリー・ノートンは世界恐慌の余波で会社が倒産した実業家の夫をポルトガルに残し、四人の子どもを連れてロンドンに戻って英国軍に勤め、ニューヨークに転勤した時に家計の足しにと執筆を始めた。
 裕福な家庭に生まれ、それまで何不自由なく暮らしてきた。アリエッティ家族のくらし方はメアリー自身の生活術で、自ら人生を切り開いていく気高さはアリエッティの前向きな凛とした強さに表されている。
 その物語を独自の解釈でイメージを膨らませ、映画にしたのが監督の米本宏昌さん。宮崎駿さんに抜擢され、監督に初挑戦した。迷い悩みながらも妥協せず、手を抜かずにこだわり、アリエッティと床上の屋敷に療養に来ていた少年の恋を織り交ぜながら、床下の日常を描いた。 
 そして映画美術監督の種田陽平さんはスタジオジブリとのコラボレーションで、東京都現代美術館の企画展示室にアリエッティ家族の住まいを映画のセットのように手作りし、床下のくらしを再現した。どの空間も愛情がこもり、しあわせが充満していた。
 「美しい種族たちが地球の環境の変化に対応できず滅んでいった。残念だけど君たちもそういう運命なんだ」。映画でそう語る少年に、アリエッティは「運命ですって? 何としても生きのびなきゃいけないってお父さんも言っていた。だから危険があっても新しいところへ行くの」と言う。
 アリエッティの物語には続編が四冊あり、アリエッティはどこへ行っても、工夫を凝らして丁寧に楽しく暮らし、どんな状況にも果 敢に立ち向かう。ものを考え、手を動かし、何かを作る、くらしの基本と迸る生命力がそこにはある。

そのほかの過去の記事はこちらで見られます。