047回 ヴィヴァルディの「四季」

大越 章子

 

画・松本 令子

毎日、毎日繰り返し聞いたあのころ

ヴィヴァルディの「四季」

 1月末に双葉郡大熊町のホールで、久しぶりにヴィヴァルディの「四季」を聞いた。千住真理子さんとN響メンバーのアンサンブルで、プチ追っかけをしているチェロ四重奏の1人が加わっていることもあって、コンサートに行きたくなった。
 500席ほどのゆったりしたホール。第1と第2バイオリンが3人ずつ、ビオラとチェロが2人ずつ、それにコントラバスとチェンバロ、中央にソロの真理子さんが立った。
 1番前のほぼまんなかの席はストレートに音が伝わってきて、それぞれの演奏者の音を聞きわけられ、4つの協奏曲(春、夏、秋、冬が各3楽章からなっている)の世界にどっぷり浸った。翌日からは毎日のように、部屋で「四季」のCDをかけている。
 こんなに繰り返し「四季」を聞いているのは、小学6年生以来と思う。あの時は何がきっかけだったのか、「四季」のレコードをねだって買ってもらい、毎日毎日、部屋のプレイヤーで聞いた。母が選んでくれたのはイ・ムジチのものだった。
 レコードをかけると、イタリアの小さな村にすっと入り込み、小鳥のさえずりや稲妻、収穫を祝うダンス、凍てつく寒さなど、季節の移ろいを旅した。それは幼いころ好きだったプロコフィエフの「ピーターと狼」を聞く感覚に似ていた。自筆の譜面 に記されていたという、春、夏、秋、冬の情景をうたったソネットを読んでからは、村のイメージがより鮮明になった。
 そのうちに友達にも聞かせたくなって、学校帰りになかよしのクラスメートたちを自室に引き連れ、レコード鑑賞会をした。片面 20分ほど。A面が終わってみんながほっとするのもつかの間、レコードをくるり回して、秋と冬の入るB面 をかけた。あのころはそれぞれに夢中なものを持っていて、友達同士でそれを共有し、少しずつ世界を広げていた。
 「四季」熱中症は半年ぐらい続いた。卒業式の練習が始まって、卒業証書授与の時に流れるBGMが気に入ると、興味はその曲に移った。ベートーヴェンの「ロマンス」。「もう中学生になるのだから」と自分で選んだそのレコードを、それからしばらく繰り返し聞いたのは言うまでもない。
 コンサートから帰ってきて、レコード棚からしばらくぶりでイ・ムジチの「四季」を取り出してみた。ジャケットを開くと、時を重ねたにおいがする。裏側の合奏団の演奏写 真は、N響メンバーのアンサンブル構成とまったく同じで、聞いたばかりの音がよみがえる。 
 ターンテーブルにレコードを載せ、針を置いた。ちゃんと回転し、かすかに音も聞こえるけれど、接続が悪いのかスピーカーは無言のまま。ためしにあちこちのボタンを押したり、ダイヤルを回してみても変わらない。もうかなり、おじいさんのステレオ。本格的な春が来る前に、大点検して、イ・ムジチの「四季」で春を迎えたい。

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