065回 Cosmic Eyes

大越 章子

 

画・松本 令子

自分の思いを素直に自分流で表現する

Cosmic Eyes

 薄暗い展示室に並べられた、大きなブロンズの頭像とにらめっこした。それぞれ端材を集めて作ったような白い台に載っていて、じっと見つめていると、だれかに似ている気がしてくる。幼稚園に一緒に通 ったナツコちゃんだったり、「腹心の友」を誓い合った小学校の同級生だったり。一巡り終えた時には不思議に、自分自身と語り合った感じがした。  横浜美術館で開かれた奈良美智さんの展覧会「君や僕にちょっと似ている」(9月23日まで)は、そんなふうにブロンズ彫刻とのにらめっこから始まる。それも粘土の塊と格闘した奈良さんの指の動きがあらわについた頭像。いろんな思いを内側にぎゅっと封じ込め、表面 的には涼しげな透明感を醸しだしていた。

  次の展示室にかがんで入ると、そこは奈良さんの仕事場の風景を再現した空間で、「2011年7月の僕のスタジオから/水戸での展示を経由して2012年7月の横浜へ」と名づけられ、日常、奈良さんを取り囲んでいるものや作品が、きれいに整然と並べられていた。
  壁棚に置かれたバートンの絵本『ちいさなおうち』、ねこの写 真、人形、電気スタンド、花の髪飾りをつけた女の子が「命」の文字を書いている絵、「NO Nukes」のプラカードを胸に掲げた女の子の絵もある。
  さりげなく壁に、奈良さんのポリシー「NEVER FORGET YOUR BEGINNER S SPIRIT!(初心忘れるべからず)」の手書きの紙もはってあり、これまでなら宝探しをするみたいにわくわく、楽しめる奈良さんのインスタレーションなのだけれど、だんだん悲しくなってきて、涙がこぼれ落ちないようにしながら、しばらくそこに立っていた。

  3.11の震災後、奈良さんは絵が描けなくなった。青森県弘前市出身で、アトリエは事故を起こした福島第一原発から100km離れた、栃木県の那須にある。放射能問題で中止になったアメリカ人作家の展覧会の代わりに企画された、水戸芸術館のグループ展(昨年7月開催)に誘われたが、何も作れなくて悩んだという。
しかしある日、郵便受けの横に積んであった、中身を抜いた封筒の山の上に置いたおもちゃの家が目に入り、それが何だかおかしくて、自分の家で飾ったものを美術館に持って行けばいいと思った。
 秋からは母校の愛知県立芸術大学で学生と同じアトリエに半年滞在して粘土と向き合い、指の跡を刻みながら大型のブロンズ像を何体も作った。それからドローイングを描き、ためていたエネルギーをはき出すようにたくさんの絵を描き、また大きな絵が描けるようになった。
  2001年の展覧会から11年の時を経て、再び横浜美術館で開かれた展覧会は、震災後の奈良さんの軌跡で、見る側もこの1年半の自分、見終えた後には震災前の10年間の自分をも振り返る。気負いはない。いつものように、さまざまなエキスは内部に押し込んで沈め、ポップな女の子がたくさん描かれていた。
  ただ、やっぱりこれまでと少し違う。押し込んで沈めたものが、じわじわにじみ出てくる。展示室の最後に飾ってあった「Cosmic Eyes(未完)」が象徴的で、涙をためたその女の子の左目には「I MISS YOU」、右目には「OH MY GOD」と記し、余韻を残す。

 6月の金曜日の夕方、総理官邸前に行った時の光景と「再稼働反対」と繰り返す人々の声が蘇る。さまざまなプラカードとともに、奈良さんが1998年に描いた、「NO NUKES」の紙を持ち、髪を2つに縛ってちょっと怒っている女の子の絵もたくさん左右に揺れていた。
  わかれ道の大切な時は、自分の思いを素直に自分流で表現したい。

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