080回 「とねりこ」のこと

大越 章子

 

画・松本 令子

「ちいさくても思いたかく」の精神で

「とねりこ」のこと

 仕事納めの日、編集室にたくさんの段ボール箱が届いた。運転手さんを手伝い、みんなでリレーして運んだあと、1箱あけて包みを取り出し、どきどきしながらクラフト紙のガムテープをはがした。
  新聞や本や冊子を作っていて、いつもこの瞬間がたまらない。なかからオフホワイトの、できたての「とねりこ」創刊号が出てきた。色校正で確認していても完成品は格別 で、手にした感触をたしかめ、ページをぱらぱらめくり、しばらく感慨に耽った。

  2012年の夏だった。福島市で暮らすジャーナリストの友人に「地域で何かしたい東北の女性たちを支援するプロジェクトがあるんだけど、一緒にやらない?」と誘われた。フェリシモ(本社・神戸市)の「とうほくIPPOプロジェクト」で、被災地の復興のきっかけづくりを目的に、お客さんから募った毎月百円義援金などから資金を支援してくれるという。 
  わたしたちが地域にできること。ふたりで話し合い、ふくしまの暮らしの手帖のような季刊誌を作ることかな、ということになった。それも講座も開いて少しずつ取材して書ける人を増やし、ゆくゆくはそれぞれの地域から発信できるようにして、現状や思い、考えを伝えられたら、何かが変わっていくのではないかしら、と互いに熱く語った。 
  そんな思いを友人が文書にまとめ、プロジェクトに応募した。書類審査の間に周囲の仲間たちに声をかけ、二次の面 接を受けて支援が決まったあとに集い、会の名前が「のはら舎」、季刊誌は「とねりこ」とつけた。
  ふくしまの歴史や風土、文化を再認識しながら耕し、暮らす術を探る「ふくしまで暮らす手帖」。広い野原にどっしり根をはる1本の木をイメージし、生命の木と言われるとねりこのように、強くてしなやかなくらしをみんなで考えていこう、という思いを込めた。
  経費の節約と利便性から、編集室は日々の新聞社内に置いて、翌春の創刊を目指し、広く存在を知ってもらえるよう、特集のテーマは「八重と会津」にした。けれど、みんなで真冬の会津に出かけたものの、雪で思うように取材ができず、最初に咲いて会津に春がきたことを知らせる石部桜の開花に間に合わなかった。
  それどころか季節は春から夏、秋と移り、この間、めいめいに会津を何度も訪ね、絵やデザイン担当者も描き直し、レイアウトのし直しを繰り返した。そうして大河ドラマが最終回の放送を終えたころ、ようやく印刷所に入稿した。まっさらからのスタートはやはり時間がかかる。それぞれに仕事を持ち、暮らす地域が離れているのも大きい。 

  気の抜けたソーダ水のようになるかも、と心配したが、創刊号は春になったらお伴に連れて、会津を旅したくなる仕上がりになった。地域を知る手立て、興味のきっかけになり、そこから世界が広がり、深められるかもしれない。
  まだまだだけれど、表紙に記してあるように、ちいさくても思いたかく、みんなで作り続けていけるといい。

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