081回 食べ物のこと

大越 章子

 

画・松本 令子

どんな食材を選び、どう料理して食べるか

食べ物のこと

 このあいだの夕食は利休揚げだった。
  鶏の胸肉を厚さ1cmほどにそぎ切りして塩をふり、といた卵白にくぐらせ、お皿に広げたごまの上に置いて、上からもごまを振りかける。フライパンに深さ1cmの油を入れて中温に熱し、ごまが焦げないようにしながら、鶏肉を2分ぐらい揚げるという。
  そぎ切りとごまの風味のおかげで、あまり鶏肉と感じない。
  唐揚げや鶏とじゃがいもの中華煮込み、バルサミコ酢煮など、鶏肉を使った料理が限られているわが家では珍しい献立で、不思議に思った。食べながら、そういえば数日前に「お肉はね、牛や豚と比べて鶏の方が安全なんだって」と、母に話したのを思い出した。

  原発事故後、食べ物のことをずいぶん学び、家族や友人・知人などと情報を交換している。基準値がかなり上げられたので、食材をどう選び、料理する際に何に気をつけ、工夫すればいいのかを探ってきた。
  例えば、放射性セシウムは水に溶けやすく、油脂類と結合しない性質がある。だから、野菜や果 物は流水でよく洗い、葉は3、4枚むき捨て、葉茎や根を大きめに切り落とし、皮はすべてむいて、塩水や酢水にさらしたり、茹でこぼしたり。意識して、味噌などの発酵食品や梅干し、天然塩なども口にしている。
  市民測定室や食品に含まれた放射能測定データを発信しているネットのおかげで、時間の経過とともに、さまざまな食べ物の傾向がわかってきた。そのなかで「あったらいいのに」と思っていた本が、昨年暮れに出版された。ちだいさんの『食べる?』(新評論)だ。 
  原発事故の11カ月後から2年近く、自主的に食品の検査をしてきたちだいさんが、厚生労働省のデータを基に、ほかの測定機関の結果 も含めて、どの食材が安心で、どれには注意が必要なのかを、品目ごとにわかりやすく、まとめている。
  もちろん「注意が必要」と書かれていても、その食品がすべて汚染されているわけではないし、あくまで1つの目安に過ぎないことは、ちだいさんも本のはじめに記している。けれどページをめくっているとおおよそ確認でき、新たに教えられることもいろいろある。
  チェルノブイリの原発事故の際には蓄積率が高いと警戒されたダイコンは、水分を多く含んでいるため、市民測定所では不検出になることが多いとか、イカはストロンチウムを蓄積しやすいという話もあるから、セシウムの測定だけで状況を知ることはできないとか、小麦ふすまを使ったシリアルは要注意とか…。 
  それにしても、不検出の食材はやはり少ない。それを踏まえて、自分の許容範囲をどれくらいに置き、何をどう料理して食べるかを、原発事故後の世界では考えていかなければならないし、年々低くなっていると安心しきるのではなく、推移を眺めていかなければならないだろう。

  食材にほんの微量しか含まれていなくても、1度の食事で微量 の食材をいくつも使い、それが3度の食事やおやつで毎日続けられれば、微量 ではなくなる。しかも測定されているのはセシウムだけで、放射性物質が人体にどんな害を、どのくらいもたらすのかは詳しくわかっていない。
  もうそんなことは、みんな知っているけれど、そういう現実を少し遠くに追いやりがちな日々の暮らしで、『食べる?』は食べ物と向き合わせてくれる。そのため、わが家では居間に置いて、いつでもだれでも手にとれるようにしている。

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