082回 ヴィターリのシャコンス

大越 章子

 

画・松本 令子

大熊町そして双葉郡を思うメロディー

ヴィターリのシャコンス

 カレンダーを3月にめくると、ヴィターリ(1663-1745)の「シャコンヌ」が聞きたくなる。トマソ・アントニオ・ヴィターリ。ヴィヴァルディと同時代のイタリアの作曲家でヴァイオリニストで、「シャコンヌ」はその代表作とされている。 
 けれどこの曲は謎めいている。オリジナルの楽譜が第三者の手稿譜で、どうも作者不明のようだ。19世紀のヴァイオリニストのフェルディナント・ダーヴィトが編曲して広く知られるようになり、さらにフランスの音楽学者のレオポルド・シェルリエがドラマチックに編曲し、いま多くのヴァイオリニストに演奏されている。
 ゆったりした三拍子で、魅力的な主題の繰り返しを基本に変奏が展開され、巧みな転調を何度も組み込んでいる。せつなく悲愴的で、繊細でやさしく、情熱的で、凛とした強さも感じさせる。
 2011年の1月末に双葉郡大熊町の文化センターで、千住真理子さんと十数人のN響奏者のアンサンブルで聴いた。

  その日、お弁当やお茶、お菓子などを準備して早めに家を出て、国道6号線を北に向かい、途中、道の駅ならはで車を止めてお弁当を食べた。ピクニック気分で食後に紅茶を入れ、デザートにリンゴをむいた。窓からどこまでも続く青空が見えた。 
 富岡町を通り抜け、大熊町の三角屋の交差点を左折するのを忘れ、その先の総合スポーツセンター沿いを走り、常磐線を越えてJR大野駅前の商店街を抜けて再び線路を渡り、ぐるっと大熊町の中心部を一周して、ようやく文化センターに着いた。
 500ほどの客席がゆったり並ぶ心地よいホールの、1番前列のまんなかに座った。10日前に知ったコンサートだったので、最前列と最後列の席しかなくて、担当者に勧められた席をお願いした。ステージと最前列席の間がずいぶん離れていて、いい席だった。
 真理子さんとN響奏者のアンサンブルは、30年近く前、真理子さんが横浜市緑区に暮らしていたころ、同じまちに住むN響奏者たちと弦楽四重奏団を結成し、その縁で主席、次席奏者を中心に構成して、たまにコンサートを開いていた。

   ヴィヴァルディの「四季」がメインのプログラム。コンサートの前半、モーツァルトの「ディヴェルティメント」などとともに、ヴィターリの「シャコンヌ」が演奏された。真理子さんの兄で作曲家の千住明さんが弦楽伴奏版に編曲したもので、よりドラマティクになっている。
 真理子さんは13歳の時、初めてこの曲を弾き、一目惚れした。寝ても覚めてもメロディーがこころに響き続け、かなわぬ 秘めた想いを叫ぶようなけなげさに、たまらなく魂を揺さぶられたという。
 最前列のまんなかの席はステージがストレートに飛び込んでくる。真理子さんの話に相づちを打ち、問いかけに答え、演奏は全身で聴いた。ほかの曲もよかったけれど、ヴィターリの「シャコンヌ」は10分ほどの小品なので集中して聴くことができ、体の奥深くまでしみ込んだ。

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