100回 15年ぶりの再会

大越 章子

 

画・松本 令子

不思議そうにまじまじ顔を見てうつむいた

15年ぶりの再会

 8月末の誕生日に、るんるんは15歳になった。中型犬なので、人間の年齢にすると76歳ぐらい。そういえば最近、耳が少し遠くなってきたように感じるし、眠っている時間も多い。けれど相変わらず元気で食いしん坊、朝夕の散歩も軽やかで、わがままも健在で自己主張する。

 るんるんがわが家にやって来たのは、生後1カ月を過ぎたころだった。家族に相談もなく、父が子犬の入った段ボールを抱えて、会社から帰ってきた。あまりに唐突な行動に、わが家は大パニックとなり、その日、飲み会だったわたしにも「緊急事態だから、すぐ帰ってきて」と電話があった。
 何ごとかと急いで帰宅し「なかに子犬がいます。注意して入ってね」と、張り紙がしてある玄関のドアを恐る恐るあけた。みんなで子犬をぐるり囲んで、近くのスーパで買ってきたドッグフードを食べさせていた。
 慣れない家でクーンと泣き続ける子犬を横目に「返さないなら、あしたからホテルで生活する」と母は言い出し、騒動は真夜中まで続いた。寝静まった午前3時を過ぎても子犬が泣きやまず、父は「おまえ、いいかげん泣くのはやめろよ」と言い聞かせた。
 翌日、子犬は縁側につながれ、その翌日には美容室で全身を洗ってもらい、かわいらしいピンクの首輪をつけた。寝心地のいい赤屋根の小屋もできた。それでも犬騒動は治まらず、名前もないまま、もちろん保健所の戸籍登録もされずにいた。
 子犬は「こいぬ」と呼ばれる度に不安そうな顔をし、いつ返されるかわからないわが身を案じているかのように、けなげに振る舞った。その様子に犬が苦手な母も、心を開かざるを得なかった。
 母の心境の変化を敏感に察知してのことなのか、1カ月ほど過ぎたある日、父が「そろそろ名前をつけないと」と、ぽつり言った。子犬は名前を呼ぶ人も、呼ばれる子犬も、その度に元気になれるよう「るんるん」と名づけ、家族の一員になった。

 それから15年ほどが経ち、この夏は父の新盆だった。たくさんの人が訪れてくれ、そのなかに会社の同僚のカナリさんもいた。るんるんのお母さんの飼い主で、父はカナリさんからるんるんをもらった。
 「わんちゃんは元気ですか」と言うカナリさんに、るんるんがわが家にきた経緯を初めて聞いた。その後の大騒動にわたしたちが少しふれると、容易に想像がついたようで、カナリさんは申し訳なさそうに体を小さくし、みんなで大笑いした。
 そして、カナリさんはちょうど散歩から帰ってきた、るんるんと再会した。「るんるん、カナリさんだよ」と紹介すると、不思議そうにカナリさんの顔をまじまじ見つめ、恥ずかしそうに目を伏せた。
 るんるんのお母さんは6月に18歳で大往生し、カナリさんの家にはるんるんのずっと下の妹がいる。その妹はるんるんに似ているという。るんるんはカナリさんと会って何かを感じたらしいが、それはるんるんしかわからない。
 「大事にしてくれて、ありがとう」。カナリさんはそう言って、笑顔で帰って行った。15年ぶりのちいさな再会だった。

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