104回 猪苗代でのお正月

大越 章子

 

画・松本 令子

いいことがたくさんありますように

猪苗代でのお正月

 年末・年始は家族が暮らす猪苗代で過ごした。大晦日に郡山まで高速バスで、そこから磐越西線に乗り換えて列車で行った。途中、猪苗代に一番近いトンネルをぬ けると、車窓の風景は一変して雪景色になる。
 天気のいい日で、空はまっ青。けれど磐梯山も田園風景もすっぽり雪に覆われ、そのコントラストがすがすがしかった。タクシーの運転手さんによると、冬の猪苗代は風景が1時間でまったく違ってしまうという。いったん本格的に雪が降り出せばたちまち積もり、吹雪くと1m先も見えなくなる。
 「この冬は暖かいからですからね、例年だと、いまごろはこんな雪じゃありません。それに猪苗代の雪は、ほかで梅が咲き始める立春辺りからが本番です」と、運転手さんは笑った。
 その夜はいつもの年越し同様、11時過ぎにお蕎麦を食べ、紅白歌合戦で「蛍の光」が演奏されるころまでには後片づけを終え、「ゆく年くる年」を見ながら新年の時報を聞いた。窓を開けて耳をすますと、静寂が広がっていた。

 新しい年を迎えても暖かな日が続いた。初詣には徳川二代将軍の秀忠の子で、初代会津藩主の保科正之を祀った土津神社と、小平潟天満宮に出かけた。磐梯山の麓にある土津神社は桜や紅葉のころが美しく、夏にはフタバアオイの花が見られる。
 小平潟天満宮は猪苗代湖の天神浜の松林のなかにあり、学問の神さまの菅原道真を祀っていて、京都北野、九州太宰府とともに「日本三大天満宮」と言われている。保科正之も篤く信仰し、三代藩主の正容の時代に、「鶴ヶ城を守って」と祈りをこめて、いまの場所にそれも鶴ヶ城の方角(西向き)に社殿を造り替えた。 
 土津神社をお参りした野口英世の写真が残っているが、父の佐代助が小平潟出身だったから、英世は小平潟天満宮にも祭りなどの際、家族で参拝した。友人の娘が受験生なので合格を祈って手を合わせ、合格守りを買った。
 天神浜からは磐梯山がよく見え、水面に白鳥が浮かんでいれば、絵はがきのような写 真が撮れる。これから寒さが一段と厳しくなると、天神浜から東の三日月湖にかけての約1kmの湖畔には、木々にかかる波しぶきがそのまま凍結する「しぶき氷」ができる。
 体を温めたくて湖畔のカフェ「TARO CAFE」に寄った。普段、行列ができていて、なかなかなかに入れない。この日は1組だけ順番待ちをしていたので、そのうしろに並んだ。このカフェではみんな、のんびりお茶を飲み、おしゃべりしたり、本を読んだりして過ごす。20分ほど待って、席に着いた。
 白鳥号でのレイクルーズや森のトレッキングに心ひかれたが、それは次の楽しみにとっておいた。滞在した4日の間に磐梯山や田畑の雪はほぼ消えた。極寒と大雪を覚悟して出かけた冬の猪苗代だったが、室内はいわきよりも暖かだった。
 猪苗代では新年に入って連日、虹が出た。ことし、いい年でありますように。
 

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