128回 るんるんの旅立ち

大越 章子

 

画・松本 令子

気持ちのいい青空が広がった春の日に

るんるんの旅立ち

 「春がきた」と思わせるような、暖かで気持ちのいい青空が広がった3月3日、わが家の犬のるんるんが天国に旅立った。

 るんるんは昨年秋におしりかじり虫にやられ、2週間ほど玄関入院をした。しかしその後は月桂樹の木の下の犬小屋に戻り、食いしん坊も復活し、朝夕の散歩を欠かさず、サプリメントのおかげでぴょんぴょん跳びはね、相変わらずおてんばな毎日を過ごしていた。
 ただ年齢も見え隠れしていた。冬には下半身が細くなり、そのうち上半身も痩せてきて、いつごろからか歩く速度もゆっくりになった。それでも散歩の時間になると、小屋から出てきて待機し、散歩のあとにはもりもりドッグフードを食べた。 
 この冬はとても寒かったので、犬小屋の壁を内側から断熱ボードで囲み、床に段ボールとジョイントマットと厚手の毛布を敷いて、入口にカーテンをつけ、夜は湯たんぽをそばに置いた。それに、前の家に住む叔母がセーターをリフォームして作ったニットのワンピースを着せて、痩せた体が冷えないようにした。 

 1月の雪が積もった朝は大喜びで庭を歩き回り、足跡をつけて遊んだ。「早く春になるといいね」。そんな言葉をかけながら、北風のなかを散歩した。そして2月になったころ、お腹の具合が悪くなった。
 数日、様子を見ていたがよくなる気配はなく、なにより食欲がなくなったので、動物病院に連れて行った。血液検査などから「急性膵炎」との診断だった。点滴をして、消化のいい特別 療法食の缶詰と薬を出してもらい、るんるんは再び玄関入院をした。
 日に日に元気になり食欲も戻ったが、お腹の調子は改善せず、先生は「100歳だからね。でも頑張っているね」と言って、薬を1つ増やしてくれた。昼間は犬小屋、夕方からは玄関で過ごす日々が続いた。大好きな散歩を休もうとしないので、自宅の敷地内をぐるり歩かせた。

 お腹の具合がよくならないなか、散歩は1周半が1周、半周と短くなり、ある日、るんるんは立てなくなった。わたしたち家族は介護を覚悟し、これまで通 りの日常を心がけ、できなくなったことを手助けした。それは人間の介護と同じで、るんるんも素直に受け入れた。
 母と前の家の叔母と3人での介護だったが、結構、大変だった。それでも、しあわせそうな寝顔を見ると、こちらも温かな気持ちになり「明日もがんばろう」と思った。わが家に来て約18年、家族の1員だった。
 相変わらずの食欲が元気のバロメーター。ところが3月になるころから、お腹は空いているのに、うまくのみ込めなくなった。るんるん自身、なんとか食べようと必死だった。しかし、3月3日の朝は口にスプーンを持っていっても、まったく食べようとしなかった。
 その日はほんとうに暖かな土曜日で、犬小屋近くに敷いた毛布にるんるんは寝転がり、しばらく春の陽と風と戯れた。それから犬小屋で休み、再び、陽の光の下で毛布に寝かせ体を拭いた。ちょうど妹も帰省していて、みんなでるんるんを囲み、口に水を含ませてみた。すると1度、大きな声で鳴いて、呼吸が静かになった。

 るんるんはいまごろ、子犬のるんるんをもらってきた父と天国で会って、いっしょに散歩をしているかもしれない。遺骨のそばには写 真と首輪、好物の缶詰め、そしてハンス・ウィルヘルムの絵本『ずーっと ずっと だいすきだよ』を置いている。

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