135回 最後のマーチング

大越 章子

 

画・松本 令子

気迫に満ち、思いがストレートに伝わる

最後のマーチング

 4年前から会津地方のちいさな小学校のマーチングバンドを応援している。応援といっても特別 に何かしているわけではなく、毎年、福島市のあづま総合体育館で開かれているマーチングフェスティバル(福島県大会)に出かけ、観客席から無言の声援を送り続けてきた。
 それまでマーチングのことは、ほとんど知らなかった。一般的に、計算された幾何学的な動きをしながら演奏するイメージがあるが、それは中学生以上で、小学生の場合、ミュージカル風な感じが目立つ。歌を楽器演奏に変え、旗や大道具を使った演技ともいえる動きが加わり、ひとつの物語を展開する総合芸術的な色合いが強い。 
 背景画や大道具、コスチューム、演奏中に何度も持ち替えられるデザイン的な旗、時にはダンスやアクロバット的な動きも加え、縦横無尽に動き回りながら、楽器を奏でなければならない。一糸乱れぬ 美しい動きに、澄んだ心地いいハーモニーを響かせる。 

 今年も9月末の日曜日に、マーチングフェスティバルが開かれた。応援している小学校のマーチングバンドは最後の出場となった。昭和62年から続けてきた常連校だが、毎日慌ただしい子どもたちへの時間的配慮と、少子化での近い将来を見据えての決断だった。
 全校児童が100人もいないなかで「みんなでマーチング」を合い言葉に4、5、6年生が全員、授業の一環で取り組んできた。マーチングは上級生から下級生に受け継がれ、保護者はもちろん地域の人々も存続に協力し、子どもたちは年に何度も地域の行事でパレードしている。
 地域には磐梯山がそびえ、冬は厳しく、地吹雪で1m先も見えなくなることもある。その代わり春の訪れは日いちにちとはっきり実感でき、春から秋はとにかく風景が美しい。そこで暮らす子どもたちは自然の変化を体全体で感じていて、その風土がマーチングにも表れている。
 全員参加なので得手不得手もあり、バランスを上手にとるのに苦労してきた。けれど子どもたちの気持ちがぴったり合った時には、想像をはるかに超えたマーチングになる。ミュージカル風ではなくスタンダードなマーチングを目指し、洗練されてはいないが小学生らしく元気で力強く、土のにおいがする。 
 この小学校の最後のマーチングのテーマは「31年間ありがとう~感謝の気持ちをこめて」。37人の子どもたちは「みんなでマーチング、お願いします」と体育館に入り、「ふるさと」と「会津磐梯山」「ありがとう」「ヤングマン」の四曲を演奏・演技した。 
 毎年のことだが、放課後はもちろん休み時間も練習してきた。春には自転車競技、夏は陸上、冬はクロスカントリーなどとかけ持ちで、夏休みも半分は練習にあてた。なかには親子で同じ小学校に通 い、二代でマーチングを経験している家庭もあり、思いは熱く、存続を望む声は少なからずあった。
 最後のマーチングはこれまでで一番気迫に満ち、思いがストレートに伝わってきて、やっぱり土のにおいがした。得意の「会津磐梯山」では、「おはら庄助さん 何で身上つぶした 朝寝 朝酒 朝湯が大好きで それで身上つぶした  ハァ モットモダ モットモダ」と掛け声も入り、のりのりだった。 
 もう伝統の黒と青のユニホームが見られないのかと思うと寂しく、ビデオを撮りながら涙があふれた。子どもたちのなかから「やっぱりやりたい」という声が飛び出してくるのを、ひそかに期待している。

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