006回 れんげ畑

大越 章子

 

画・松本 令子

ピンクと緑のスプリング絨毯

えんげ畑

 まちの桜が散って葉桜になったころ、小川町上小川の田んぼにピンクと緑の大きな絨毯が敷き詰められる。いまはほとんど見られなくなった“れんげ畑”だ。国道399号を平から小川に車を走らせ、草野心平の詩「上小川村 大字上小川」に出てくるブリキ屋の通 りを抜け、家屋がとぎれた辺りの左側に広がっている。

 れんげ畑は川前町の松本英人さんが地主から借りている土地で、面積は約3000平方メートル。もともと自生していたが、18年ほど前に基盤整備をした際、土が動いて自然に増えたという。
 松本さんは和牛を40頭(うち子牛が15頭ほど)飼っていて、れんげは牛たちの餌にしている。例年、4月半ば過ぎから満開になり、ピンク色がより鮮やかになる。実を落とすのを待って収穫するので、れんげ畑だけは田植えが6月上旬にずれ込む。
 牛たちにとってれんげは“青物”のごちそうで、それだけだと下痢をしてしまうので、ほかの餌と混ぜて食べさせている。れんげの根は土に含まれる根瘤菌の寄生から根瘤をつくり、根瘤に共生している細菌によって窒素を固定同化し、田んぼの化学肥料の量を減らせる。そのため、昔はれんげ畑が数多く見られた。

 子どものころに、れんげ畑で遊んだ記憶はない。だからなのか、ピンクと緑のこの絨毯を見ると、靴を脱いで素足になって駆けまわり、寝ころび、座って冠や首飾りを作ってみたくなる。シロツメクサでそうしたように。でもいつもあぜ道で眺めるだけで、そっとしている。そして深呼吸して春の香りのする空気をいっぱい吸い込む。
 れんげと一緒にタンポポやスズメノテッポウ、ヒメオドリコソウ、カラスノエンドウ、カキオドシスなど、春の野草がたくさん咲いて春真っ盛り。暖かな風に揺られ、ハミングしている。近くの民家では、こいのぼりが元気に泳いでいる。 

 松本さんは秋、コンバインで刈り入れする時も、発芽したれんげがなくならないようにに気を遣いながら作業している。毎年、れんげの絨毯を楽しみにしている人たちがいるから。「きれいな花をありがとう」。そう言われる。

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