009回 からくり時計

大越 章子

 

画・松本 令子

まちを楽しくする小さな大道芸人

からくり時計

 平三町目のヤマトの前にある「じゃんがらからくり時計」を初めて見に行った日を覚えている。時計が動き始めた日のお昼。同僚の記者と時計の真ん前を陣取って、わくわくしながら待った。
 長針と短針が12の位置で重なった瞬間、時計の両脇がくるり回転し、じゃんがら装束のかわいらしい人形が登場。じゃんがらシンフォニーのメロディーに合わせ、鉦や太鼓をたたいて踊る。その時間は3分。動きが平面 的でとてもシンプルなからくり時計だが、小さな大道芸人がまちにやってきた感じがして、うれしくなった。「そう、まちはこうじゃなきゃ」と。
 からくり時計は静から動に変わる瞬間が大事だ。映画館なら、ブザーが鳴ってスクリーンのカーテンが開く瞬間。だから、歩いていたらタイミングよく動いている人形に遭遇した、では、からくり時計は半分しか楽しめない。
 意識して時計の前に立って、動き出す瞬間を待つ。いつもは待つのが嫌いだけれど、からくり時計は特別で、待つことから始まる。それは子どものころ真夜中に目を覚ますと、本当におもちゃが箱を飛び出しておしゃべりしたり、ダンスしたりするのではないかと思って、寝たふりをして様子をうかがったりしたのに似ている。
 そのうちに、いつの間にか眠ってしまい、大好きなぬいぐるみのぞうさんや、おしゃべりなマーガレットちゃんがひとりでに動く姿はついぞ目撃できなかった。
 市制25周年を記念して平成3年に造られたからくり時計はもう13年間、時を刻み、午前8時から午後8時まで2時間おきに、人形がくるりと登場してまちにじゃんがらの音を響かせている。この間、時々、電気系統のトラブルで「故障中」の張り紙がはられ、病気療養のために休業した。
 いま、時計の前で人形の登場を待つ人の姿はほとんど見られない。もしかしたら、ヤマトの前にからくり時計があることを知らない人もけっこういるかもしれない。いわきの夏の音、じゃんがら。この季節、いつもの駅前の待ち合わせ場所をからくり時計前に変えてみるのもいい。待ち合わせは偶数時間。待つことが楽しくなる。

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