411号-2

 漁業者として虚心坦懐に提言を読んだ。学術的な知見を有していないこともあり、「すべての提言を理解できた」という内容になっているとは思っていない。提言を読んでいくとどうしても「なんでこのようなことが起こったのか」というところに立ち返ってしまうので、廃炉に関する具体的なところまで意識を持っていくことが、できない。
 わたしたち福島の漁業者は、地元の海洋に育まれた魚介類を漁獲することをにしている。震災後も、地元で土着しながら生活を再建するということを、一貫して考えてきた。だからこそ「海洋放出は反対する」という考えに至らざるを得ない。
 また国が進めてきた重要な汚染水対策で、原子力建屋に流入する地下水を減少させ、汚染水の総量 を抑制するためにサブドレン(地下水バイパス)の運用に苦渋の決断を行い、協力した。その課程で国に要望書を提出し、トリチウムを含む水に関しては「関係者の理解なしにはいかなる処分も行わない」という回答を受けている。これらのハードルを乗り越えることは今後の信頼関係を維持するうえで、非常に重要な論点だと思っている。
 福島県沿岸漁業では、対象が生鮮のために全量検査を行えず、操業日ごとに一魚種一検体以上の検査を行って科学的根拠とし、安全を確認して試験操業を行っている。そうした事情から令和元年度の本県の操業は震災前漁獲量 の14%に留まっている。しかし国の出荷制限がことし2月に解除され、これから増産に向けて舵を切ろうとして入る矢先である。さらに震災九年という歳月の経過は世代交代を進ませ、若い後継者の参入が進んだ。彼らに漁業の将来を約束していかなければならない。
 海洋には県境がない。意図的に海洋にトリチウムを放出することは福島県の漁業者だけで判断することはできないので、すべての漁業者から意見を聞いてもらいたい。以上の観点から、福島県の漁業者としてトリチウム処理水の海洋放出には反対する、という立場を主張していきたいと思う。