487号

未来のために 487号

 ジャムを作るためにいちごの取り置きをお願いした直売所に向かう車のなかでそのニュースが流れた。
 「福島第一原発から出る処理水の海洋放出について、東京電力は陸側の放出設備の完成に合わせ、放出設備に不備がないかを確認する試運転を(6月)12日に始めると発表しました。試運転では、真水と海水を使用し、海底トンネルを通じて沖合約1㎞に放出します」
 この日は西村康稔経産大臣が宮城、福島、茨城の3県を訪れ、福島第一原発の敷地内のタンクにためられているトリチウムなどを含む汚染水の海洋放出について、漁業関係者と意見交換をしていた。先のニュースと前後して、午前中、西村大臣が宮城に行って「海洋放出は廃炉を進めていくには避けて通れない課題」と説明し、漁業関係者は「海洋放出に反対の姿勢は変わらないが、支援策の充実を求めていく」と語ったとの報道がされた。
 夕方や夜には、西村大臣が福島や茨城でも同様の説明をし、両県の漁業者たちは「反対の姿勢は変わらない」と述べたことが報じられた。
 意見交換は平行線のまま、海洋放出の準備が「この夏ごろ」という開始時期に向けて着々と進められている。しかし国と東電は2015年に「関係者の理解なしには、いかなる処分も行わない」と、地元漁業者たちに約束している。なぜそのような約束を、漁業者たちは文書で交わしたのか。生業の関係で漁業者が矢面に立っているが、海を守るためにほかならない。
 福島大学の林薫平さんは「震災後、環境中に意図的、計画的に放射性物質を放出するのは初めて。にもかかわらず議論が足りず、2025年まで海洋放出を凍結して、その間に円卓会議を設けて大きな社会的議論をすべき」と提案している。
 約束を反故にして海洋放出が強行されれば、未来に禍根を残す。

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