
自分は詩の旅をするつもりで東京を出た。
人に会ひ、自然を見て外に詩を発見するといふよりは、人を離れ厳格にこの身をこらしめて、その厳しさと寂しさから一層澄み透つた内の詩を作らうと思った。
(中略)
体がまだまだナマだ。もつともつと叩かなければならない。触れればおのずから散る、と云つた具合に鋭敏さと微妙さと沈着さと、自然さ、さうしたものが身につくまで叩かなければならない。
「比叡山記」の一節。天平がどうして都会を捨てて比叡山に入ったのか、その理由と覚悟が見える。秋、落葉樹の葉が「ふっ」と離れる様を見て、「とても微妙なものだ」と感じて詩にしようとしたが、「それにはまだまだ鍛錬が足りない」とも書いている。