昏れるときの容子のとほり
ひとりでに靄は溶けて
ほんたうに
溶けたまま
色はとれ
それに
音なども絶えて
たれも知らない遠い代の
匂いのやうな休まりかた
無ささうにとも思へるし
また
有りさうにとも云へさうに
沼もやはり物おとをひそめ
涯なども無くして
ちつとも動かずに
薄いつやだけを保つ
(靄と沼)
『白経』のなかの1つ。小川の沼で構想を得た。この詩から天平の作品は言葉の輪郭を失い、村上華岳の墨絵を彷彿させるような朦朧の世界へと入り込んでいく。