レインガと会う |
少し前のおはなしです。瀬戸内海に象が住んでいました。名前はレインガと言います。背丈は150㎝ぐらいの小さな象です。レインガは長い鼻をシュノーケルの様に海面から出して息をしながら海底を歩くのが得意です。レインガは海の底が大好きです。海底には色々な物があるからです。不思議な形の塊や、キラキラ光る石を見つけては、「これはもしかしたら世界でも珍しい大発見かもしれないゾウ」と想ゾウしたり。壺のようなものを見つけては、「これはいつの時代の物だろう、何に使う物だろう、どんな人が使っていたのだろう」と想ゾウしたり。沈んだ船を見つけると「この船は、どこに行こうとしていたのだろう。何を運んでいたのだろう」と想ゾウするのが大好きでした。
レインガは海底で、今じゃない昔のことや未来のこと、ここではない海の向こうのこと、まだ会ったことのない人のことをずっと想像していたいなあ、と夢見ていました。ある日レインガがいつものように海底を歩いていると大きな煉瓦船が沈んでいるのを見つけました。大量の煉瓦が海の底に山のように沈んでいたのです。レインガはこの煉瓦を使って海底に家を造ること想ゾウしました。いつまでも想像する事ができる「想像する家」を造るのです…。
あれから時間がずいぶんと経ちました。瀬戸内海の海の底にいるレインガは今、どうしているのでしょうか? 瀬戸内海のある島には、こんな伝説があります。
あなたが海を見つめながら海の底を想像し、あなたの中の海の底に想像する家を造り始めたとき、あなたの見つめている海の海面に煉瓦でできている象が現れて、あなたを海の見えない世界に連れて行ってくれるのです。そして見えない世界のことを想像する力を得て、自分とは異なる価値を持った人々と互いに暮らすことで豊かな時間を過ごせるようになります。
先週、私はレインガと会うことができました。実は3年前にも会いました。次はきっと3年後に会えるような気がします。
(アーティスト)