469号 2022年9月15日 |

問題の核心は風評被害ではなく
食物連鎖による生物濃縮での内部被ばく
福島第一原発の敷地内のタンクにたまり続けているトリチウムなどを含む汚染水について、経済産業省からいわき市議会の各派代表者への現況説明が9月初めに、いわき市役所議会棟で行われた。
いわき市議会では昨年5月、トリチウムなどを含む汚染水の処分方法の再検討を求める意見書を国に提出している。しかし経産省の説明は海洋放出(海に流す)が前提で、質疑応答を繰り返しても平行線で理解は深まらない。4年前に開催された公聴会から、状況はまったく変わっていない。
そもそも福島県漁連(野﨑哲会長)がこれまで、建屋の山側で汲みあげた地下水(地下水バイパス)と、サブドレン(建屋近くの井戸)から汲みあげた地下水の海洋放出を苦渋の選択で受け入れてきたのは、タンクにたまったトリチウムを含む汚染水を海に流さないためだ。
タンクに貯蔵されている汚染水は、燃料デブリのある建屋内に流れ込んだ地下水で、サブドレンなどから汲みあげた地下水とは明らかに違う。2015年、サブドレンの地下水を海に流すにあたり、県漁連は「建屋内の水は多核種除去設備(ALPS)などで処理したあとも、発電所内のタンクで責任を持って厳重に保管管理を行い、漁業者、国民の理解を得られない海洋放出は絶対に行わないこと」を要望した。
それに対して国と東電は「関係者の理解なしにはいかなる処分も行わず、ALPSで処理した水は発電所内のタンクに貯留する」と約束している。ここでの理解は風評被害対策でも、漁業の支援策でもない。海や大気に出さない別な方法の提示にほかならない。
経産省から市議会の各派代表者への説明が行われた数日後、北海道がんセンター名誉院長の西尾正道さんから、一橋名誉教授の岩佐茂さんとジオリサーチ・ナカヤマ代表の中山一夫さんとの三人の共著『原発汚染水はどこへ』(学習の友社・100ページ)が届いた。
そのなかでは、トリチウムなどを含む汚染水が抱える問題の核心は風評被害ではなく、食物連鎖による生物濃縮での内部被ばくだが、政府はその問題にはまったく言及していない、と指摘している。
海水で薄めてトリチウム濃度を国の排出基準の40分の1(1ℓあたり1500Bq)にしても、130万tに近い膨大な量で、時間をかけてもこれほどの量を海に流した事例は世界になく、総量制限もない。溶け落ちた燃料デブリにふれた水だから、トリチウム以外の放射性核種も含まれている。
それらをいくら希釈しても、時間をかけて海に流しても、半減期を迎えない限り、放射性物質が減ることはない。海に流される量は膨大なので、長い年月にわたって内部被ばくのリスクにさらされる。それも、タンクに貯蔵されるトリチウムを含む汚染水は廃炉が終了するまで増え続け、海洋放出も続いていく、と述べている。
「トリチウムなどを含む汚染水から放射性物質が除去され浄化するまで、政府と東電はそれを保管・管理する責任がある」。3人の著者たちの思いだ。期間は十万年。汚染水問題を現実的に解決するには、理にかなった方法を提案して多くの人に納得してもらう。そうでなければ問題は解決しないという。
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