155号 ノミの箱跳びの話(2009.8.15)

画・黒田 征太郎

「学習性無気力症」が蔓延している

 ノミの箱跳びの話

「ノミの箱跳び」の話をしたい。20年近く前、市町村アカデミー教授を務めていた阿部孝夫さん(現在の川崎市長)が教えてくれた。
 ノミは普通、1mぐらい跳べる。ところがノミを捕まえて、20cmの箱の中に半年か1年入れておくと、ふたを開けて自由にしても20cmしか跳べなくなってしまう。いまの社会を象徴しているようで、恐い話だと思った。
 競争社会だというのに横並び意識が蔓延し、管理されることに慣れてしまう。努力しても見返りがないから、何をしても無駄だということを学習する。結果、淡々と自分の利益を確保すればいい、と思うようになる。それが普通になっていくと、変であることに気づかなくなっていく。「学習性無気力症」。こうした時代がいやに長いような気がする。
 いま社会を動かしている人たちが20センチの箱に入れられ、飼い慣らされたノミだったら、20cmしか跳べないノミしか生産されないことになる。これは悲劇と言うより、絶望だろう。本来の跳躍力を復活させるにはシステムを変え、人心を一新するしかない。
 先日、櫛田一男市長をインタヴューした際、こう尋ねた。「櫛田さんは4年前、閉塞感打破を訴えて当選しました。にもかかわらず、閉塞感が強まっているように感じます。市役所のシステムや人事を一新するなど、何か考えはありますか」—。すると櫛田さんは「閉塞感の原因は私です」と答えた。ジョークなのか本音なのか…。ただ、閉塞感を感じながら、それを打破できず、苦しみもがいた4年間だったのは、間違いないだろう。でもここで「大過ない4年間だった。目立った失政もない」と言ってしまったら、20cmしか跳べないノミの世界は変わらない。

(安竜 昌弘)

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