251号 勝川漫画の魔法(2013.8.15)

画・勝川克志

忘れ物を思い出したような気持ちになる
「ドクロ党の人々」を完結させてほしい

 勝川漫画の魔法

 東京・阿佐ヶ谷にあるギャラリー喫茶「Cobu」で13日まで開かれていた、勝川克志さんの原画展を見てきた。前回が東日本大震災が起きた年の夏だったから、ちょうど2年ぶりになる。
 「Cobu」を見つけるのは、なかなか難しい。阿佐ヶ谷南口のパールセンターにあるのだが、入り口は婦人洋品店「スミレ」。婦人服を横目に、店内を横切って入る。「スミレ」が開業したのが昭和29年、「Cobu」もその10年後ぐらいにはあったというから、喫茶店文化華やかしころの趣が漂っている。雰囲気がピタッと勝川さんの作品とはまっていて、思わず微笑んでしまう。
 勝川さんを知ったのは、朝日新聞の文化欄に載っていた記事がきっかけだった。『椿ちゃんの漫画百面相』という単行本が、朝日ソノラマから出版されたばかりで、すぐ買い求めた。読んでみると、その1つひとつが完成度の高い作品ばかりで、すっかり魅了された。前の年に出た『豆宇宙珍品館』(たざわ書房)も注文した。その本には川本三郎さんが解説を書いていて、2冊は宝物になった。30年以上も前の話だ。
 勝川さんの漫画の魅力について考える。ひと言で言えば、幼な友だちに会った感じ、だろうか。その関係は、何年たっても色あせない。すぐ、無邪気だったころに戻れる。お互いの立場が変わっていても、関係ない。
 だから、勝川さんの本を手放そうと思ったことは、1度もない。本棚から取り出して久しぶりに読んでみると、忘れ物を思い出したような気持ちになれる。ずっと愛読しているが、新しい作品が出ても、裏切られたような思いをしたことがない。しんみりしたり晴れ晴れしたり、兄弟げんかのような温かさがある。それが何ともいい。
 
「Cobu」に顔を出したのは先月30日の夕方だった。午後7時から、東中野のポレポレ坐で取材があったので、その前に寄った。原画を見たり、Tシャツやシールを買ったりしていたら、中年の男性が1人で入ってきた。手には発行されたばかりの「のんき新聞27号」(勝川さん手作りのミニ新聞)を持っている。知り合いかファンなのだろう。原画を見て表情を緩め、アイスクリームを食べていた。「みんな勝川漫画が好きなんだな」と、妙に嬉しくなった。
 展示で目を引いたのは休刊になってしまった『ビックコミックONE』に連載していた「ドクロ党の人々」の漫景(詳細に描かれたパノラマ図のような2ページ分のシーン)。それはそれは、丁寧な仕事だった。休刊のあおりで物語そのものが完結していないため、いまのところ「幻の傑作」になっている。オールカラーの連載だったので、何とか書き終えて単行本として出版してもらいたい、というのがファンの1人としての願いでもあり、ひそかな楽しみでもある。

 震災の年の夏、「原画展」にかこつけて、川本さんと勝川さんを誘って、阿佐谷の居酒屋で飲んだ。まるで久しぶりに会った幼なじみ同士のように、次から次へと話が出た。震災の話、漫画の話、映画の話…。だれも偉ぶらず、子どものように純粋になってはしゃいだ。それはわくわくするような楽しい時間だった。
 おそらく、勝川漫画がかけた魔法なのだろう。

(安竜 昌弘)

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