362号 金子さんの書(2018.3.31)

画・黒田 征太郎

存在感がある反骨俳人が書いた「反安倍」の象徴

 金子さんの書

 編集室に金子兜太さんが揮毫した「アベ政治を許さない」という書のコピーが張ってある。俳句界に新風を吹き込み、自らの体験から生涯反戦を訴え続けた金子さんらしい骨太の書だ。安保法制関連法案の反対運動が盛り上がったときに書き、プラカードなどに使われた。そのとき「なぜ安倍をカタカナにしたかって? 漢字にする価値がないからだよ。カタカナで十分だ」と言っていた。そして先月20日、98歳の生涯を閉じた。
 来訪者の反応が興味深い。心のなかで何かは思っているのだろうが、口に出す人はほとんどいない。でもたまに絡まれることがある。最初は「なぜ張っているのですか」とやんわり来る。「言葉通りです。一刻も早く退陣してもらいたいので、旗幟を鮮明にしています。自由が好きですから」と答える。すると「安倍さんのほかにだれかいますか?株だって上がっているし…。小泉進次郎が育つまでつないでもらえばいいんです」と来る。この議論は放射能問題と同じでいつまでたっても平行線なので、自然と当たり障りのない話題に変わっていく。
 前の国税庁長官で、「森友文書」の改ざんに関わったとされる佐川宣寿さんの証人喚問を見た。やはり核心に触れる部分は「刑事訴追の可能性」を盾に何も話さなかった。森友問題も加計問題もスパコン問題も安倍首相周辺による「特別な計らい」が明らかなのに口裏を合わせて、必至になって自分たちの既得権益を守ろうとする。そして前の文科省政務次官・前川喜平さんのように正論を吐く目障りな存在は権力を使って足を引っ張り、活動を妨害する。これこそ安倍さん周辺の体質なのだと思う。よくない。
 佐川さんは、いわきの人だ。平一中3年の途中までいたが、父が亡くなったために東京に引っ越し、3人の兄たちが高校(九段)、大学(二浪して東大経済学部)の学費を出して旧大蔵省に入った苦労人。いわき市の応援大使にも名を連ねている。責任をかぶって1人悪者にされているが、思えば気の毒だ。そして官僚はだれのためにいるのか、どこを向いて仕事をすべきなのかを、考えさせられる。原発事故もそうなのだが、本当の悪人は前に出ず、陰でぬくぬくとしている。金子さんの書は、まだはずせない。 

(安竜 昌弘)

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