147回 大草原の小さな家のクリスマス(2019.12.15)

大越 章子

 

画・松本 令子

その夜は、ほかの人たちの幸せを願う

大草原の小さな家のクリスマス

 ここ半年ほどBSプレミアムの「大草原の小さな家」を楽しみに見ていた。1975年から76年にかけて放送されたパイロット版とシリーズ一(全24話)で、映像は4Kリマスター版(デジタル化して汚れや傷を取り除き、色彩 の補正や音質の調整をしたもの)に修正され、日本語吹き替えも新翻訳と声優たちで新たにされた。 
 アメリカの西部開拓時代のものがたり。なにもない大きな森や大草原で、主人公のインガルス一家は自然の脅威にさらされながら、助け合ってゼロから生活を築きあげていく。次女のローラ(1867-1957)が子ども時代の思い出を綴った「小さな家」シリーズを原作にドラマ化されたが、シリーズが進むにつれて、ものがたりは原作から離れ広がる。
 最初に放送された時は小学校の高学年で、ローラやメアリの視点で見ていたが、いまは母さんや父さん、周囲のおとなたちの目線になっているのに気づく。母さんやローラの声の変化に慣れるまで違和感もあった。

 プロローグ的なパイロット版は、インガルス一家がウィスコンシンの大きな森を出発し、カンザスの草原へと新天地を求め、さらにミネソタに旅立つまでを描いている。福音館書店から出ている全5巻の「小さな家」シリーズの2巻目『大草原の小さな家』がちょうど、そのおはなしにあたる。
 幌馬車に家財道具を積み込んでウィスコンシンを出発した一家はミシシッピ川を渡り、ミネソタ、アイオワ、ミズーリを通 って、南カンザスのインディアン居住地の草原にたどり着いた。父さんはそこに丸太小屋を建て、井戸を掘り、狩りに行ってごちそうを射とめる。
 やがてその大草原の小さな家で、ローラたちはクリスマスを迎えた。暖炉にかけてある靴下を見て、父さんは「娘たちになにもしてやれない」と、プレゼントを気にする。ローラたちも「サンタクロースはここに来られるかしら」と心配する。
 その晩、インガルス家の夕食に招かれたエドワーズさん(父さんの友人)は極寒の川を渡って、凍りつきそうになりながらやって来た。それもプレゼントを持って。インデペンデンスの町で、ばったりサンタクロースに会って「インガルスの子どもたちに」と頼まれたという。プレゼントはブリキのカップと、しましまの棒キャンディだった。
 そして暖炉の靴下には、1ペニーのコインと白砂糖のかかったハートのクッキー、赤い毛糸の手ぶくろが入っていた。ローラたちは「こんな素晴らしいクリスマスは初めて」と思うのだった。 
 ささやかだけれど、あたたかな気持ちいっぱいの、カンザスの大草原でのクリスマス。もともと日々のちいさな喜びにしあわせを感じる一家だが、ローラたちにとってもやっぱりクリスマスは特別 な日だ。
 福音館書店の「小さな家」シリーズは、すべての巻にクリスマスのおはなしが入っている。3巻目の『プラムクリークの土手で』(ミネソタのウォルナットグローブでの暮らし)では、母さんがサンタクロースについてローラたちに話す場面 がある。 
 「クリスマス・イヴというのは、みんなが人のためを思う時なのです。その夜こそは、だれもかれも、みんな自分勝手な考えを忘れ、ほかの人たちのしあわせを願うからこそ、サンタクロースがあらゆる所に現れるのです。そして、朝になると、それが形になって見えるのです」。 
 スノーマン家族の陶器人形やメロディーが流れるもみの木、スノードームやアドベントカレンダーを飾りながらその母さんの言葉を思い出す。 
 Merry Christmas!

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