370号 宿題の完成

画・黒田 征太郎

本の出版を機にこの18年についていろいろ考えた

 宿題の完成

 ずっと宿題として残っていた草野天平と梅乃夫人をめぐる物語を書き上げ、なんとか本にした。前著『天平ーある詩人の生涯』を出したのが2000年(平成12)だから、18年かかったことになる。肩の荷が下りた。
 その間に梅乃さんが亡くなり、前回取材した人々、出版を支えてくれた仲間たちが次々と鬼籍に入った。そして東日本大震災と原発事故が起こった。その後に誕生した安倍政権は秘密保護法、共謀罪、安保法制などを次々と通し、社会がどんどん右傾化している。
 金子光晴にその詩を評価され、貧しくても縛られずに自由であり続けることを望み続けた天平と梅乃さんの人生。そのひたむきで一途な日々のかけらを拾い、組み合わせていく作業をすればするほど、窮屈な今という時代が、目の前に立ち上がってきた。

 天平は初めての詩集『ひとつの道』を出したあと『白経』という詩集を出そうとしていた。以前に梅乃さんが読み方について話していたのだが失念してしまって、思い出せない。「はっきょう」だった気がするのだが自信がない。
 ある日、白経の手がかりを調べていて「しろだて」というのが出てきた。織物の読み方で縦糸が白で、全体が白っぽい織物のこと。逆に黒経は「くろだて」で黒ベースだそうで、そこから緯度経度へと結びついていった。経は確かに縦を意味する言葉でもある。
 このささやかであさはかな発見と天平の思いがつながるかは怪しいものだが、糸を紡ぐように言葉を組み合わせていく天平の詩のあり方が、妙に重なる。
 もう1つ。『ひとつの道』を出した十字屋書店。ちいさな古書店だが、文圃堂版を引き継いで宮沢賢治全集」(6巻+別巻)を発行している。その出版姿勢に頭が下がる思いがした。

(安竜 昌弘)

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