260号 桑田佳祐賛(2014.1.1)

画・黒田 征太郎

好きなこと楽しいことを徹底的にやり切ろう

 桑田佳祐賛

 思いがけずチケットが手に入って、桑田佳祐の「ひとり紅白歌合戦」を見てきた。なんと4時間ぶっ続け、55曲の熱唱で、その生きざまを見せられた思いがした。
 1956年生まれの57歳。2010年の夏に初期の食道癌であることがわかり、手術を受けて復帰した。その後、特に震災後の活動を見ていると、「生ききる」という意志がひしひしと伝わってくる。「ひとり紅白」のステージは、まさにそうだった。
 紅組白組に分かれて、紅白歌合戦が展開される。でも歌うのは桑田1人。自ら歌いたい曲を選び、次から次へと歌っていく。東京ラプソディ、涙のかわくまで、なごり雪、 グッドナイトベイビー、なんてったってアイドル、TOKIO、どうにもとまらない、そしてアンパンマンのマーチも。決しておちゃらけではなく、歌の良さを生かしながら、桑田流の歌い方でオーソドックスに歌っていく。だから、本家本元にひけを取らない。バックの演奏もダンサーも本気になって、ひとり紅白を演出している。その真剣さ、一途さにぐっときた。やっぱり、桑田はいい。
 最後近くになって、なぜ紅白歌合戦なのか、を説明した。そこにはミュージックマン・桑田佳祐の原点があった。大晦日の夜、家族が茶の間に集まって、家に1台しかないテレビを囲む。ミカンを食べたり、年越しそばを食べながら、夢中になって紅白を見る。そんな、昭和30年代、40年代の日々がジャンルにとらわれない音楽の素晴らしさ、楽しさを教えてくれたのだろう。好きなこと、楽しいことを徹底してやることで、いまの桑田がかたちづくられたのだと思う。
 「みんなごめんな。こっちは楽しくてやってるからいいけど。知らない曲ばっかりだろう。きのうゲネプロ(本番リハーサル)をやったら4時間かかっちゃったんだよ。大丈夫かな」
 そこには、傲慢さもおごりもまったくない。「歌が好きで好きでたまらない」という真剣でストレートな思いがあるだけだ。しかも、決して手抜きをせずにプロフェッショナルに徹する。ひたすら心を込めて歌い、その歌が持っている良さを伝える。それが桑田の真骨頂なのだろう。この夜のライブは、それを教えてくれた。
 2011年、震災があった年の大晦日だった。ふと思い立って、神奈川県の茅ヶ崎に宿をとった。言わずと知れた、桑田佳祐の出身地。「阿部浅別館」という古びた宿に泊まって、サザンロードを歩き、夜は紅白歌合戦を見た。そして元旦には茅ヶ崎海岸で初日の出を見た。家で年越しをし、目の前の海で初日の出を見てきた身としては、珍しいことだった。いま思えば、震災がそうさせたのかもしれない。
 みんな、それぞれの人生を生きている。いろいろあるけれど、後悔しないように、日々全力で生きていこう。いつ何が起こるか、どうなるかはわからない。渾身を込めて歌う桑田からは、そんなメッセージが伝わってきた。
 そして、俵万智の短歌が浮かんだ。
  思いっきりボリュームあげて聴くサザン どれもこれも泣いているような
 確かに、あの野太いしわがれ声の絶叫はせつなく、心をわしづかみにする。

(安竜 昌弘)

そのほかの過去の記事はこちらで見られます。