450号 「みだれ髪」のこと(2021.11.30)

画・黒田 征太郎

 

人間としてのひばりさんを知ったひととき

 「みだれ髪」のこと

 縄文魂の「忘れない♯7」を見に行った。何より黒田征太郎さんと会いたかったし、歌人の三原由起子さんとも話したかった。まず三原さんが自作の短歌を朗読し、三上寛さんが歌った。黒田さんはその間中、ひたすら絵を描き続けた。そして最後の最後、黒田さんが三上さんに美空ひばりの「みだれ髪」をリクエストし、ひばりさんとのエピソードを話し始めた。
 きっかけは岡林信康さんだった。「歌をやめる」と言い出した岡林さんを訪ね、「歌えよ」と言うと「歌えへん」の一点張り。無理矢理押し入れを開けると名残惜しそうにギターがあった。そこで春日八郎の「赤いランプの終列車」を一緒に歌った。「演歌はえぇぞ。やっぱり演歌や」と黒田さんが言うと「ええなぁ」ということになり、演歌を作るようになった。それをひばりさんが聴いて「歌いたい」と言い、交流が始まった。
 いつもごちそうになってばかりなので、黒田さんたちが「ごちそうさせて」と新宿ゴールデン街に連れ出した。ドキドキものだった。すると客が「歌を聴かせてくれよ」と言い始めた。しかもリクエストは浪曲子守唄。逃げ出したい黒田さんを尻目にひばりさんが「歌うわよ」とこともなげに歌い、立て続けに何曲か歌った。いい話だった。
 調べてみると、ひばりさんは岡林さんの「風の流れに」と「月の夜汽車」を歌っている。しかもネットにはひばりさんと岡林さんの対談、ひばりさん、岡林さん、黒田さん、泉谷しげるさんが一緒に酒を飲んで談笑している写真まである。そして岡林さんがひばりさん亡きあと、「レクイエム〜麦畑のひばり〜」を作って歌っていることも知った。対談でひばりさんは「私は女王、あなたは神様って呼ばれている。そんなのやめにしましょうよ」と言っている。そこには、素のにんげん2人がいた。

 三上さんの「みだれ髪」は良かった。ひばりさんは難しいこの歌を、立つのが大変な状況のなかでレコーディングしたという。でも歌を聴いている限り、そんな様子は感じられない。
 「みだれ髪」はひばりさんの鎮魂歌であり、墓なのだという。これまで、黒田さんを1度も塩屋埼灯台に案内していなかったことを後悔した。

(安竜 昌弘)

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