医師不足で、市内の大きな病院でも予想以上に診療科があちこち欠けている。これまで97.8%の患者の治療はいわきで完結できていたが、肺がんの手術など、地域でできない治療が出てきている。救急車で患者を日立や仙台の病院に運ぶこともある。いわきの医療の現状を、磐城済生会理事長で、いわき市病院協議会会長の松村耕三さんに聞いた。
人手が足りなくなったこの2年で、いわきの勤務医の数はかなり減り、いろんな障害が出ている。うちの病院も25、6人いた医師が13、4人になっている。その一方、診療所の数は増えている。
医師が不足している原因は、2年前から始まった臨床研修制度にある。これまで医師の確保は大学からの派遣に頼ってきたが、大学で研究する医師が少なくなり、関連病院に医師を派遣するどころか、大学自体の医師が足りなくなって、派遣した医師を引き上げている。残された医師たちはオーバーワークになってつらい状況にあり、開業する医師もいる。
目に見える問題として小児科や産婦人科の医師不足が取りざたされているが、ほかの診療科も同じだ。
研修制度そのものが悪いわけではない。そこから派生した医師の分布がアンバランスになっている。研修先の病院を自分で選べるから、魅力のある大都会の有名病院を中心に研修医が集まる。福島県立医科大学は県内出身者が多いけれど県内には残らないし、残ることを強制することもできない。それじゃあと、研修医が集まる魅力ある研修病院にすることも難しい。
新しい研修制度の一期生は2年間の初期研修を終え、この4月から専門を選んで後期研修に入っている。そのうち産婦人科を例にとると、東北6県にある医学部に入局したのは7人だけ。とても間に合わない。4、5年後、後期研修を終えた就職できない医師が地方に回ってくるかもしれないが、いい人材が戻ってくるかはまた別
のことだ。
いまの現状をみて、この研修医制度にどこまで手が加えられるか。わたしたちの研修医時代は月に2、3回、家に帰れればよかった。ところがいまは、午後5時になると研修医を帰さなければならない。そのような研修を終えた時、医師として夜まで働けるのか。病気に勤務時間はない。
医局制度は果たして悪かったのか。いろんなところを歩くことで、先輩の姿、形を見て、勉強になった。派遣された病院の手にもなった。医局制度が崩れ、医師としての幅は狭くなり、その病院以外では勤務できなくなるかもしれない。
いわきの医師不足は対外的にはそんなに深刻ではないが、勤務医の密度は県内で一番厳しい。どこまで情報がきちんと伝わっているか、その辺は政治的なことになるものの、政治で解決するとどこかでアンバランスになる。医師の偏在化は国レベルで考えていかないといけない。
何も手が打てない。月並みなこと、例えば縁故関係で医師を探してはいるが、効果
はない。あと4、5年、頑張れるか。それまで、いまいる医師たちが健康を害さないで、どれだけ耐えられるか、それが心配なところ。
いわきはそのうち、医療過疎になるかもしれない。医師が供給過剰になると言われたころ、医療機関は患者の満足度を高める医療を目指した。それが逆転した。表にはまだ見えないけれど、そのうち市民は診療を断られることが多くなるかもしれない。「きょうは入院対応ができません」。そういうことが公然と、はっきりしてくる。
よく病診連携と言われるが、病院と診療所はまったく形態も、持っている資源も、能力も違う。入院施設を持つ診療所が少なくなり、とりあえず入院がなくなっている。その状況で、病院をうまく利用していかなければならない。
診療所の先生が週1回でも来て外来を手伝ってくれれば、その分、医師たちは入院の診療ができるのだが、実際には診療所の先生も時間的に難しい。患者の状態をきちんと診て、専門医の診察が必要かどうか、振り分けられる医師がどう頑張れるか。医療の質、量
を落とさず、この4、5年をどう耐えられるかだ。
いわきのほとんどの診療所で、お産はやらなくなった。正常分娩を扱う病院はうちだけ。救急車を受ける病院も少なくなった。いま、いわきでは一次救急は機能していない。二次救急もつらくなっている。結局、三次救急に集中する。その状況は救急隊員がよくわかっている。そして救急が共立病院に集中したら、専門医がパンクする。
うちは当直医を置いているが、医師の不足で月二回ほどだった当直が5、6回に増え、理事長のわたしもその体制に入っている。「運ばれて来た患者さんはちゃんと受けるように」と、医師たちには言っている。一晩に8台の救急車が来ることがある。検査、診断、治療で1人の患者に2時間かかる。入院となればさらに1時間。当直の晩は眠れない。
市民に救急車の使い方、病院の受診の仕方をちゃんと伝える必要がある。それ以上、負荷をかけると、ぎりぎりで頑張っている医師たちが頑張れなくなる。4、5年経って医師の供給ができるまで病院は持ちこたえなければならない。いまのような感じになると、医師が倒れないように配慮するだけ。1人当直が抜けただけで、みんなにしわ寄せが来る。
いわきの病院協議会にはいま、30病院が会員になっている。そこでは「共立の負担を軽減するような協力をしよう」と話し合っている。それぞれの病院が機能を持っている。1つの病院が欠けても大変なことになる。「選ばれる病院になろう」とほかをけ落とすのではなく、みんながつらくなっている時だから、バランスのいい状態を保つことが大切と思っている。
よく共立病院の赤字が取りざたされるけれど、急性期医療を一生懸命やれば赤字が出るのは当たり前。一生懸命やるほど赤字になる。だれも共立病院を黒字にはできない。共立病院は浜通
りの基幹病院で、ほかができない医療をしている。それを市民が納得して、負担すればいい。つらいのはよくわかっているから、われわれは協力する。われわれにできない医療をしているのだから。
特別な医療に関して、ブラックジャックがいてもいい。でも、ブラックジャックはすべてを背負えない。日常のことは地域で背負っていかないといけない。地域の安心が病院の仕事と思っている。市民が医療機関の利用の仕方を考えないと、救急をはじめ、ほかの地域に頼らなければならなくなる。
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