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香取先生(前列左から2番目)と恵美子さん(前列左から4番目)

 昨年の春だった。常磐音楽舞踊学院教授で、エミ・バレエスクールなどを主宰している小野恵美子さん(64)は、朝日新聞の取材を受けた。福島県版の「あの人に伝えたい」という欄の取材で、踊りのこころを教えてくれた舞踊家の香取希代子さんへの思いを語った。
 その2年前、常磐ハワイアンセンターを舞台にした映画「フラガール」が全国の映画館で上映され、松雪泰子が演じたまどか先生のモデルのカレイナニ早川さんと、蒼井優の紀美子のモデルだった恵美子さんの師弟関係が脚光を浴びた。
 しかし、恵美子さんたち常磐音楽舞踊学院一期生にはもう1人、大切に思う踊りの先生がいた。それが香取さんだった。恵美子さんにとって、ダンサーとしての育ての親が早川さんなら、香取さんは生みの親。いつからか、もう1人のまどか先生の存在も伝えたい、と思うようになった。
 「わたしと教え子たちで来春、創作フラメンコを上演します。もう一人の『フラ(メンコ)ガール』がテーマで、香取先生が主人公です。先生役はわたし。あの独特の抑揚のある話し方も、せりふに入れます。よく似ていると思っています」
 恵美子さんは胸に秘めていたことを、朝日新聞の記者に明言した。来春とは、自身の舞踊45周年の記念公演を意味する。恵美子さんは自分で自分の背中を押した。
■ 
 香取さんはいわき生まれ、育ち。父親は入山採炭の建築技師で、のちに常磐ハワイアンセンターの社長になった中村豊さんが入山採炭に入社した時には、すでに管理職だったという。そのころ磐城高等女学校の生徒だった香取さんは、中村さんにかわいがられた。
 幼いころから踊りが大好きで、小学生の時には父親の集まりの会でボール紙の鎧兜を着て踊り、評判になった。磐城高女時代は「体操とダンスが得意」と周りから言われた。卒業目前のある日、母親の婦人雑誌をめくっていて、留学を終えて帰国した舞踊家の高田せい子さんの記事を読み、踊りの虜になった。
 進学を理由に東京に出て、初めは和洋専門学校に通いながら、そこを卒業すると文化服装学院で学びながら、家族には秘密にして舞踊研究所に通った。学院の卒業間近に、両親に踊りのことがばれて、いわきに連れ戻された。
 それでも、諦めない。香取さんは風呂敷包みを一つ抱え、家出した。そして、松竹少女楽劇部(のちのSKD)に入り、バレエ、ジャズ、モダン、タップ、日本舞踊、世界の民族舞踊などを踊った。しかし、思いはスペイン舞踊にあった。
 26歳でダンサーの横山公一さんと結婚。ちょうど日中戦争が始まった年で、2年後には第二次世界大戦が起こり、香取さんは終戦まで夫婦で戦地を慰問して回った。終戦後は米軍キャンプを慰問し、そこで知り合った将校が『ダンス・オブ・スペイン』という四冊組みの本を取り寄せてくれた。本場のフラメンコの舞台が日本で初めて行われる十年も前だった。
 終戦から2年後、香取さん夫妻は東京都中野区野方に舞踊スタジオを開設。昭和37年にはスペイン政府の招聘でスペインに1年間留学した。7年後、さらに半年留学した。その後もスペインには10回以上行っている。フラメンコの日本の第一人者の1人で、日本フラメンコ協会の名誉会長をしている。
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 香取さんはいま、97歳。東京の自宅で娘さんの世話を受けながら、寝たきりの生活を送っている。3、4年前までは意識がはっきりしていて、話をすることもできた。しかし昨年の初夏、恵美子さんが45周年記念公演の創作フラメンコの説明と了承を得るために訪ねた時は、意識が朦朧としている感じで、言葉を交わすことはできなかった。
 動くという喜びのなかに自分を見出し、言葉でなく体で表すことで自己表現してきた香取さん。自らの著書『85歳、しなやかにフラメンコ』(パセオ刊)で「なぜ踊るのか、ということがわからないと、本当の踊りはできないはず。ただ動くのでなく、心のうちに持っているものが出てきて初めて、人様を惹きつけ、人様に何かを与えることができるのではないかと思う」と言っている。


 恵美子さんの舞踊45周年を記念した公演「常磐ハワイアンセンター物語[フラメンコ編]」が4月4日、アリオス大ホールで開かれる。恵美子さんの子どものころや常磐ハワイアンセンターのオープンの前などにタイムスリップしながら、本番までを追う。




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