4月から断続的に、いわきの医療の現状を取材している。数年前から、それまでいわきでできていた治療ができなくなっている状況に不安を感じていたが、きっかけは、いわき市立病院のあり方を考える話し合いが持たれ始めたことだった。共立病院が担う地域医療での役割を考えると、それは単に市立病院の改革で留まらないし、いわきの医療を見つめ、考える絶好のチャンスだと思った。
まずは共立病院、労災病院など、いわきの大きな病院の院長などに現状を聞いた。医師不足のなかで、医療現場の状況は予想をはるかに超えていた。例えば、夜の緊急の大手術ができるのは常勤の麻酔科医がいる共立病院だけ。労災病院や松村病院ではシフトを組んで、麻酔科医に来てもらっている。
がんなどの放射線治療のできる医者はいま、いわきにいない。共立病院や労災病院では週1、2日、ほかから来てもらっている。肺がんの手術ができる病院もない。大やけどをした時の対応も不安。救急車を呼んでもなかなか受け入れ病院が見つからず、患者を乗せたまま何十分も動けないこともしばしば。どこも受け入れない場合、最終的には共立病院が受け入れている。
全国的に不足が深刻な産婦人科は、労災病院で8月になくなり、いわきで出産ができる病院は共立病院と松村病院、診療所は森田産婦人科、つくだ町産婦人科、ノブマタニティークリニック、渡辺産婦人科、佐藤マタニティークリニック、村岡産婦人科の6つ。当面、いわき市民の出産は何とかなるとしても、里帰り出産は難しくなる。
少し前まで、いわきでの理想の医療が語られていた。しかしいま現場は、現状の医療の質と量を維持することに四苦八苦している。「医療界はいまマグニチュード5の状態にある」という医療法人養生会理事長の中山元二さんの言葉に、敏感に反応したのは医療関係者たちで、一般の人々はまだその状況を認識していない。自分や家族が医療を必要になって初めて実感する。
状況は刻々と変化している。大学の方針1つ、オーバーワークで医師が1人抜けることで、微妙なバランスはあっという間に崩れる。現に隣町の病院では11人の医師が大学に引き上げ、それまでの医療ができなくなった。いわきの病院でも同じことが起こる可能性はある。全国平均レベルの医療が、いわきでできなくなることもありうる。
現況のしわ寄せは勤務医にきている。それを緩和するには、病院と診療所が緻密な連携、役割分担をして、それぞれが責任を持つことだと思う。いまある医療資源のネットワークづくりとフル活用。医療に従事する多くの人がそう感じていても、その旗振りのできるリーダー的存在がいない。たぶんそれは共立病院なのだろうが、いまのところ動きはなく、病診連携と言われながら、言葉だけがぷかぷか浮いている。
変化は知らないうちに進み、ある時、一気に目に見えて変わるという。その時に気づいても遅い。安心できる医療のないところに、安心した生活はない。今後、フィードバックしながら、アリの目で医療の取材を続け、現状を伝えていきたい。
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