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「死んだ気がしないんです。かわいがってもらった思い出ばかり」と話す真田の妹・津奈子

誕生日

 その日は、真田の40回目の誕生日になるはずだった。6月13日。野球部の仲間たちが平・白銀の居酒屋に集まった。幹事役の山野辺が、「真田のお母さんが『まぜてやってください。これ会費です』って5万よこしたんだ。気を遣わないでください、って言ったんだけどな」と報告。みんな神妙な顔になった。すると、関根が「あっ、主役を忘れちゃったよ」と言い出した。いつも店に置いてある真田の写 真を置いてきてしまったらしい。「タクシーで戻って取ってくる」。関根は20分もすると写 真を持って、戻ってきた。 太田、岩崎、鈴木…。みんなが、真田の写 真に生ビールのジョッキを当てて乾杯する。さらに、柳井と星が合流した。「一番野球が下手だったのは、真田か杉山じゃねえか」。思い出話と、真田が好きだった曲のカラオケメドレーがいつまでも続いた。

悲しい出来事

 真田と関根の「ブラウンチップ」は、カルモシモサカというコーヒー豆や、店の姿勢を愛する常連が着実に増え、そこそこ売り上げを伸ばしていた。そのベースが、無口で職人肌の真田と、よく話す営業向きの関根とのキャラクターで、主に真田が平店、関根が錦店を見ていた。そんな二人を野球部の仲間たちがサポートした。錦店がテナントとして入っているビルも、仲間の星が社長を務めている建設会社の持ち物。ブラウンチップの隣が星の会社の事務所、さらに二階がアパートになっており、そこに独り身の真田が住んでいた。そこで悲しい出来事が起こった。
 今年の4月17日朝、真田はブラウンチップ平店に姿を現さなかった。
 関根は前の日の夜、パチンコ店で真田に会っていた。その日、16日の水曜日はブラウンチップが休みだった。昼、関根が電話をすると、真田は「かぜ気味なんで部屋で休んでいるから」と言った。そして夜の9時半すぎ、暇つぶしにパチンコをしていた関根のところに実家での夕食をすませた真田がフラッと現れた。二人はパチンコをして11時ごろに別 れた。特に変わったところはなかった。
 次の日の朝、ブラウンチップ錦店を開けようとした関根は、店の前に真田の車があるのを不審に思った。それが午前10時ごろ。しかし、「かぜをひいて体調が悪いんだろう。昼ごろまで寝かしてやろう」と思った。そして昼近く、関根は携帯に電話したが、まったく反応がなかった。さらに部屋に電話した。何回かけても受話器を取ってはもらえなかった。ドアに付いている郵便受けを開けて中をのぞくと、電話の呼び出し音が異常に大きく感じられた。関根の全身に胸騒ぎが走った。徐々に鼓動が大きくなった。星の会社に駆け込み、不動産屋さんに鍵を持ってきてもらった。星と一緒に鍵を開けて中に入ると、真田がふとんの上でうつ伏せに倒れていた。
 関根の目に、変わり果てた真田の姿が飛び込んできた。部屋の電気がついており、テレビもつけっぱなし。真田の顔はすでに青く変色し、めがねがずれていた。関根は必死に真田の背中を叩き、何回も呼びかけたが返事はなかった。星が救急車を呼んだ。しかし、ダメだった。真田寿信、享年39歳10カ月、死亡推定時刻は4月17日午前1時ごろ。死因は虚血性心筋症だった。

鎮魂のエール

 真田の葬儀の日、仲間たちが集まった。ただひとり、読売新聞の記者でニューヨークヤンキースの松井番をやっている下山田だけは、参列できなかった。山野辺が持っていた磐城高校のユニフォームにみんなが寄せ書きをして、棺に入れた。関根は「ありがとう。少し先に行って練習してろよ。おまえが一番若いだろうから、レギュラーだよ」と書いた。応援団長だった塩原が鎮魂のエールを送った。その声がみんなの胸に響いた。
  関根は、あの日以来、パチンコをやってもちっとも楽しくなくなった。そして、仲間たちが集まったときに、「40ぐらいになると一人か二人かが欠けるんだよな」と言っていた真田の姿を思い出した。
 よく、生き死にの話をするやつだった。健康診断の心電図検査で2回引っかかった。強く言って再検査を受けさせたが、異常は出なかった。最後に会ったのもおれだし、遺体を見つけたのもおれ、やっぱ、因縁なのかなぁ―と思った。真田がいなくなって、店が大変になった。忙しくて酒を飲んで悲しんでいる暇もないほど。そんなおれを、みんなが心配してくれて…。  関根が淡々と語った。関根にとって真田の死は、体の半分、いや全部を持って行かれたようなものだった。関根の心にぽっかりと穴があいた。
 ある日、ブラウンチップ錦店に真田の妹・津奈子を訪ねた。この、真田より6つ下の妹は、関根が真田の死後、役員にして店を手伝わせている。関根曰く「パートだけど役員」だ。そんな津奈子に真田の思い出を尋ねると、「離れて暮らしていたから。死んだ気がしないんです。ひょっこり顔を出すようなそんな感じ」。津奈子は、悲しみを心の奥底にしまい込みながら、笑顔でそう答えた。
(おわり=敬称略)




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