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波はよせ。
波はへし。
波は古びた石垣をなめ。
陽の照らないこの入り江に。
草野心平の「窓」という詩だ。『絶景』のなかに入っており、1940年にまとめられた。心平は海の見える窓からぼんやりと波を見つめていたのだろう。そして、打ち寄せられた下駄
や藁屑などを眺め、油のすじに着目する。そして、波の行方を夢想し、「億万の年をつかれもなく。/波はよせ。/波はかへし。/波は古びた石垣をなめ。藍や憎悪や悪徳の。/その鬱積の暗い入り江に。」と読む。
いわきは太平洋岸のまちなので、海から太陽が昇る。だから、初日の出を見ようと、元日は海岸線が大混雑する。心平の生まれ育った小川は、いわきでも山側にあり、海を見ようとすると、車で1時間以上かかる。
心平は宇宙の営みを感じさせるスケールの大きな詩を読む詩人として知られているが、この、地球や自然の営みと人間の日常を交錯させた詩は、実に心平らしい。寄せては返す波は太陽に照らされ、内海や外洋を行き来する。
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