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天平が梅乃さんのことを書いたエッセイに「挨拶」がある。その中で重要な役割を持っているのが、ベートーヴェンのピアノソナタだ。
天平はその文章の中でこう書いている。
「梅乃はベートーヴェンののピアノソナタの何番かを聴いた。そして本当に奇麗だと思った。彼女は動かず、そこに暫くじっとしていた。このソナタには昔、挨拶という題がついていたそうだけれど、もしそれが本当だったとしたら、どんなにか真心のこもった挨拶の仕方だったろうかと思った。そして自分もこういう奇麗で、しかも丁寧な人になりたいと思った」
この文章を読んだとき、梅乃さんという女性はどういう人なの
か調べたい、という突き上げるような思いがわいた。そして、ソナタは何なのか、実際に聴いてみたいと思った。
すぐ、梅乃さんに問い合わせてみたが、よくわからない、と言う。「聴けばわかる」と言うので、当時「名曲の夕べ」を開き、天平と梅乃さんにレコードを聴かせていた小森重明さんを訪ねた。
小森さんは「調べてみましょう」と約束し、後日手紙が届いた。ソナタは4大ソナタの1つ「告別
」だという。すぐ、CDを探し、ルービンシュタイン盤をテープに録音して、すぐ梅乃さんに送った。梅乃さんの返事は「この曲でした」だった。
第3楽章。まるで弾むようにピアノが奏でられる。「まさに心を込めた挨拶だ」と、しみじみ思った。そして、40数年ぶりに梅乃さんに思い出深いこの曲を聴かせることができたことが、何よりうれしかった。
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