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第15号
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一文を寄せられない一文
 
 
 


今のいわきをどう思いますか

 もう、どれくらいになるだろう。このところずっと、5、6年、閉塞感、虚無感の充満をいわきに感じている。「いわきばかりではない。時代がそうなんだ」と、言う人もいる。確かに時代、それに経済状況もあるだろう。しかしこのあきらめムード、口をつぐみ傍観している人々はそのせいだけではない。
 時々、11年前にいわきを去った1人の医師を思い出す。患者を最優先に考えた診察や治療、手術をする医師だった。最良と思えば夜中にだって手術をし、昼に手術した患者がいれば夜中に様子を見に行った。
 ある日、医師は内科に入院した患者の手術を頼まれた。手術を終え、その日は所属する科で経過を見ようとしたが、看護婦さんに「内科の患者だから内科でみるべき」と拒否された。仕方なく医局のソファで仮眠しながら、時折、内科まで患者を見に行った。ふと、医師は限界を感じた。
 勤めていた病院を辞めることも、いわきを離れることも自分で決めたが、心底望んでのことではなかった。患者、病院、いわきに思いがあった。しかし、患者とまっすぐに向き合えば向き合うほど、身も心も組織の中で動きがとれなくなって、疎外感と寂しさだけが残り、いわきを去らざるを得なかった。
 医師のようにいわきを離れないまでも、同じような思いをしている人たちが少なからずいる。持って行き場のない、やるせない思い。あきらめて、いま、沈黙を最善と考えている。見たくないものには目を背け、知りたくないことに耳を塞いだりもする。それでも奥底に思いを潜め、来たるべき時を待っている。
 この閉塞感、虚無感を打ち破るには、沈黙し続けている人たちが口を開き、動き始めるしかない。他力でなく自力本願。思っている人が思っていることを少しずつ、その積み重ねがエネルギーになり、このいわきを揺り動かす。
 今のいわきをどう思いますか? どうすればいいと考えますか?






まえむきな卵
 知り合いから聞いた話。どうしようもなく落ち込んでいた。横断歩道の前でボーッと信号待ちをしていた。ふと顔を上げると、トラックが目の前を通 り抜けていった。そのボディーには「まえむきな卵」と書かれていた。何か自分の悩みがばかばかしく思えてきた。「そうだ、人生なんて1回きりなんだ。それなら前だけを見て一生懸命生きよう」と思ったのだという。▼うつ病で苦しみ、治療を受けて見事に社会復帰を果 たしたアナウンサーの小川宏さんがテレビに出ていた。「自分が告白することで同じ病気で苦しんでいる人の励ましになれば」と出演したのだという。再三にわたって、「この病気は治るんです。何も恥ずかしいことはない。変だなと思ったら、専門のお医者さんの治療を受けて」と訴えていた▼ただ、残念な話もしていた。相変わらず、病気に対する差別 があるのだという。仕事が決まりかけていたのに横やりが入って何回かふいにした、と言う。「これは明らかに差別 ですよね」。小川さんは淡々とブラウン管を通して訴えていた▼小川さんに自殺を思いとどまらせたもの、それは先輩が繰り返し言っていた言葉だった。「人間にとって自らの命を絶つことほど、最低なことはない。それは下の下なんだ」。踏切の前に立ったとき、その言葉がよみがえり、瞬間的にわれに返った。世の中確かに不況だが、「苦しみや悲しみは立ち止まらない」のだという。それを信じて生きていきたいところだ。







案山子

 冷害で心配された田に稲が実り、案山子が立ちはじめた。毎年のことなのだが、この時期になるとこの案山子君に愛着を覚えてしまう。
 案山子は英語でscarecrow(スケアクロウ)。かつて、ジーン・ハックマンとアルパチーノが共演した映画に、そんな題名のものがあった。「オズの魔法使い」でも、いい味を出している。
 「なぜ、案山子に愛着を感じるのか」。それは、その場に留まり続けなければならない宿命を背負っている、ということだろうか。何とも大げさなのだが、長年地方紙の記者をやっていて、人や時が過ぎていくのを見続けていると、そんな心境にもなってくるのだ。
 だからといって、旅人になることを放棄しているわけではない。いつでも旅支度にはいるための心の準備はできている。
 でも、案山子は動けない。カラスやスズメにばかにされながらもただ、黙っているだけだ。そこに哀愁がある。近年、さまざまな「追い払いグッズ」が登場しているが、その効果はともかくとして、存在感に関していえば、案山子君の右に出るものはいない。
 かつて、いわきでは社会福祉協議会が主催して「かかしコンクール」なるものが行われていた。山形のものを移入したかたちだが、結局長続きはしなかった。全国各地のものをテレビなどで見ると、風刺や社会現象を扱ったものが圧倒的に多い。つまり、案山子を使って不満のはけ口にしているということで、案山子は常に受け身だ。
 




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