533号
2025年5月15日

普遍的で不変的
時計の針をぐるっと逆戻りさせて、1991(平成3)年2月9日の昼下がり、いわき市文化センターの大ホールに、校歌を歌う郷ケ丘小学校の児童たちの声が響いた。学校が創立した翌年の1982年(昭和57)に作られた校歌で、作詞を谷川俊太郎さん、作曲は湯浅譲二さんが手がけた。
その日、大ホールでは谷川俊太郎さんの講演会「書くこと 生きること」が開かれ、オープニングに児童たちは俊太郎さんの前で合唱した。聞き役の、当時、いわき明星大学図書館に勤めていた玉手匡子さんが校歌を作った時の気持ちを尋ねると、俊太郎さんは「校歌はいくつか作っていますが、一番難しい仕事の1つでね」と言って、理由を説明した。
普段、詩を書く時は、行数の指定や締め切りはあっても、思ったことを自由に書けばいい。でも校歌は学校の歌なので、生徒さんや先生方がどういう気持ちでいて、どういう学校にしていきたいかを中心に考えなきゃいけないでしょう、と。
だから俊太郎さんは、時間がある限り学校を訪ねて生徒や先生たちと話し合い、それができない時には多くの資料を送ってもらって詩を作った。校歌を書く上で最もこころしたのは、学校は長い文化的な伝統を持ち、校歌はそのシンボルとなるので、時代や社会の変化に左右されず独立したものにしなければいけない、ということだった。
校歌にはその土地の山や川など自然がよく入れられるが、自身の経験から、近い将来に開発されて変わってしまうことも考えられ、そういう移ろいやすいものも避けた。すると、学校の長い歴史のなかで不変的に培われていくのは、生徒と先生の関係や生徒同士の友情といった、生きていくイメージがなにより大事だと感じ、子どもたちの気持ちを歌いたいと思うようになった。
いまとなっては、経緯はわからないが、2006年に理論社から出版された谷川俊太郎詩集『すき』に、郷ケ丘小学校の校歌も、最後の「ああ 郷ケ丘小学校」を除いて「かんがえるのって おもしろい」のタイトルで掲載されている。
2020年からは、光村図書の小学五年生の国語の教科書にも「かんがえるのって おもしろい」が載っていて、5年生になったばかりの4月に子どもたちは音読して、イメージを広げる。なかには「この詩の最後には『ああ 郷ケ丘小学校』という1行があって、もとは福島県のいわき市立郷ケ丘小学校の校歌です」と、授業で話す先生がいるかもしれない。
いつの間にか郷ケ丘小学校の校歌は学校を飛び出して、日本国中で読まれ、知られている。校歌でありながら普遍的で、俊太郎さんの思いの通り、不変的でもある詩だからだろう。
特集 谷川俊太郎といわき |
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