日々の新聞

561号
2026年7月15日

            

 いわきは奧州の小鎌倉みたいなまちなのです

 どれくらい前だったか、獅子に乗った文殊菩薩(文殊菩薩騎獅像)の写真に「特別展 いわきの古刹長福寺と薬王寺」と書かれたチラシを手にし、ノートに挟めておいた。開催期間は5月22日から7月20日まで、場所は横浜市金沢区にある神奈川県立金沢文庫。「いわきのお寺の展覧会をなぜ金沢文庫で?」と不思議に思い、六月中旬、小川町下小川の真言律宗の長福寺の鈴木慈海住職(76)を訪ねた。
 長福寺縁起によると、長福寺は元享2年(1322)、小河入道義綱により創建された。義綱は鎌倉在番の時に、何らかの事件で鎌倉将軍の怒りにふれて切腹を命じられ、当時の慣例に従って鎌倉の極楽寺の長老から教誡を受けた。
 その際、「心残りはないか」と問われ「今年は信州諏訪神社の御戸の役に当たっているが、果たせずに死ぬのは不本意である」と述べたところ、長老の取りなしによって死罪一等を免じられたという。この恩に報いるため、義綱は所領の磐城小川に諏訪明神を勧請し、極楽寺地蔵院の慈雲和尚が東奧に下向した機会に招いて長福寺を開山した。
 奈良の西大寺を総本山とする真言律宗は中世に急速な広がりを見せたが、戦国時代以降、急激に衰退して、現在は全国でおよそ90カ寺ほど。そのなかで、いわきには長福寺を含めて6カ寺、なかでも小川に4カ寺が残っている。

 「いわきのお寺の展覧会をなぜ金沢文庫で?」という素朴な疑問は、慈海住職の説明で解消された。東日本大震災で本尊の地蔵菩薩坐像が台座から落ちて傷つき、修理の過程で願主と仏師が明らかになるとともに、像内から法華経などの写経がまとまって収納されているのが見つかった。裏側は当時の女性が書いたかな文字の手紙で、極楽寺に相談したところ、金沢文庫とその脇にある真言律宗の称名寺に連絡を取ってくれ、それらが何を意味するのか調べてもらったのだという。
 7月に入って間もなく金沢文庫に出かけ、主任学芸員の瀬谷貴之さんに説明してもらいながら特別展の展示を見た。瀬谷さんは中世に下総(千葉)、常陸(茨城)から菊多関を越え、陸奥国多賀城(宮城)に至る東海道(または海道)にふれ、いわきに真言律宗の寺が6カ寺も残っているのは長福寺があったから、と話した。
 いまは真言宗智山派の四倉の薬王寺と真言律宗の関係も詳しく説明し、白水阿弥陀堂、かつて浄土宗名越派の惣本山だった専称寺などを挙げ「鎌倉とパラレルな動きをしていて、いわきは奧州の小鎌倉みたいなまちなのです」と語った。
 金沢文庫の隣にある称名寺は金沢北条氏の菩提寺で、本堂前に阿字池を中心と朱塗りの反橋と平橋がかかる浄土式庭園が広がっている。庭園を一周し、そのあと極楽寺に向かった。車窓から鎌倉ならではの風景を楽しみ、鎌倉7切通の1つ極楽寺切通を歩いて山門をくぐり、お参りした。
 足元の歴史を深く知り、地域を見つめ直して、いわきがほんとうに奧州の小鎌倉のようなまちになるといい。

 特集 中世のいわき 特別展「長福寺と薬王寺」から

 


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