日々の新聞

567号
2026年10月15日

          画・松本 令子

      60歳のいわき市へ

 いわき市が、パワハラや酒気帯び運転をした職員を懲戒処分にしたのにホームページでの公表にとどめ、記者発表しなかったことで批判にさらされている。そうした兆候はこのところ目立っていて、9月30日に行われた「いわき市アンダーパス冠水事故防止緊急対策チーム」の会議でも、出席者に渡っている資料が報道関係者にはなく、指摘されてから配る、ということがあった。
 随分前のこと、市民のデータが外に漏れていたことに気づき、発表するかどうかの会議が行われた。「荒立てたくない」と思ったのだろう。当時の助役が「なんとか記者会見をしないで済ませることはできないのか」とブレーキを踏んだ。しかし担当課長や職員は「それは無理です」と首を縦に振らず、会見をして頭を下げた。そこには「責任の所在を明らかにしないと市民に申し訳が立たない」という、全体の奉仕者としての倫理観があった。
 あるアナウンサーはいつも「カメラの後ろには国民がいる」ということを自分に言い聞かせて仕事をしていたという。そして記者は、国民や市民の知る権利を背負って会見に臨み、取材をしている。いくらインターネットが普及し、ホームページやSNSで直接伝えることが出来るとしても、そこに監視の目は入らず、自分の都合のいいことだけを伝えることになる。今回の懲戒処分問題などは、まさにそれだった。
 市政の窓は自分たちに都合の良いところだけ開け放たれ、都合の悪いところはしっかりと鍵をかけて開けようとしない。だから、無理してこじ開けなければならなくなってしまう。いつから、こんな秘密主義がまかり通るようになったのだろうか。

 いわき未来ビジョンが発表された。正直なところ、未来が空虚に思えた。そして30年前のいわきを思った。
 市民と職員が手を携え、真剣にいわきを学び、将来のいわきを考えた。それによって市民も職員も成長し、市役所内部では「このままでは批判勢力を育てることになってしまう」と危ぶむ幹部も出て、激しくぶつかり合った。
 その流れで生まれたいわき市の未来像は、自然エネルギーを生かした「循環都市」。各家庭の屋根には太陽光パネルが張られ、持続可能な1次産業を育てて独自に発展させ、出来るだけ、いわき圏で賄えるようにする。歴史を学び、文化を大切にし、それぞれの地域の良さを掘り起こして、ブラッシュアップする。そのために地元に根ざした民間の研究機関を立ち上げ、人材を受け入れ、育てていく。暮らしやすい、いわきにするために医療を充実させ、交通機関も人口減少に対応していく…。いわきで出来ることは、いわきで出来るような町にする。だから知恵を絞ろう―。その発想には、確固とした理念があった。
 その後、「地元のシンクタンク」ともいえる未来づくりセンターが置かれるなど、少しずつかたちになっていったがいま、そのかけらもない。どこでどう間違ってしまったのか。ため息が出る。
 今回発表された未来ビジョン、手法や発想は30年前と同じように見えるが、「いわきをこうしていく。それはこういう理由から」という哲学、拠り所がない。薄ぼんやりとしたイメージ先行ともいえ、とてもわかりにくい。

 「よくここまで」と喝采した30年前の発想や計画が消えてしまったのはなぜだろう。市長が五人変わったとはいえ、行政は継続している。それは職員のレベルを上げる努力を怠ったからではないのか。いまからでも遅くはない。まずは、消えた過去を再点検し、そこから学んでもらいたい。

 特集 大雨被害を防ぐために

 


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