546号
2025年11月30日

三角形の冠のひさしの先端に
七つの鈴が揺れる天冠埴輪
青空が広がった晩秋の磐越道を走って、11月中旬、福島県立博物館を訪ねた。いま開催されている企画展「発掘ふくしま00―福島考古学事始め」(12月7日まで)に、磐城高校で保管している「天冠埴輪」(正式には埴輪男子胡坐像)が展示されている。
副主任学芸員の平澤慎さんの説明を受けながら展示室に入ると、まんなか辺りにガラスケースに入って、同じ神谷作101号古墳(いわき市平神谷作字腰巻地内)から出土した埴輪女子像や跪坐像とともに並んでいた。高さ89・4㎝、幅が24㎝、これまでの調査では6世紀後半ごろに制作されたと見られる。
頬紅をつけた端正な顔立ちで、美豆良(髪を頭の中央から左右にわけ、両耳の辺りで輪状に束ねて結んだもの)を長く垂れている。三角形の天冠をつけ、7つに分かれたまびさしの鈴が風に揺れてチリンと響いているよう。左腰に玉飾りの刀をはき、籠手をつけた両手を前に捧げ、台座に胡坐をかいている。
1948年(昭和23)の夏、発足して間もない磐城高校史学研究会の部屋(社会科教室)に、2年生の仁科誠さんが馬の頭のような素焼きを持ってきた。仁科さんのお父さんは整形外科医で、当時、神谷作で開業するために医院の敷地造成工事が行われていて、そこから出てきたものだった。
素焼きは馬の埴輪の頭部だった。その後の下調べで、そこは有望な遺跡とわかり、史学研究会は校内や地域の応援・協力を得て、その年の暮れから半年ほど、明治大学の後藤守一さんの指導を受けながら断続的に発掘調査をした。
そこからは多くの形象埴輪(人物や動物、家、盾や甲冑など器財をかたどったものがある)のかけらが見つかった。やがて、かけらとかけらをつなぎ合わせ、国立博物館で復元修理に携わっていた松原正業(号・丘南)さんに委ねると台座に胡座をかいた天冠埴輪が姿を現した。
発掘調査が行われた当時、東北の文化は大和朝廷の中央文化より200年ほど遅れていると考えられていた。ところが天冠埴輪の出現で、その定説が覆された。ただ、いくら発掘しても神谷作101号古墳からは棺や副葬品は見つかっていない。
それに、出土したほかの埴輪はすべて丸い球の首輪をしているが、天冠埴輪はしていない。両手を前に捧げるようにしている意味や、近くの中田横穴にも描かれている三角模様が何を表しているかなど、発掘から80年近くになるが謎は多い。
天冠埴輪と向き合い、しばらく眺めた。いわきの地から発掘されたというのもあるだろうが、とてもいい。見ていると、作られた六世紀や発掘されたころのいわきを知りたくなる。
| 特集 天冠埴輪ものがたり |
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