日々の新聞

450号
2021年11月30日

 

いばらき環境放射線モニタリングプロジェクト
元日本原子力研究所主任研究員       
天野 光

 2021年4月13日は国が漁師や市民を切り捨てた日として記憶されています。「関係者の理解なしには(汚染水の)いかなる処分も行わない」と断言していたのに、その日、2年後から30年以上かけて海洋放出すると明言したのです。

 東電や国が多核種除去設備(以下アルプスと略称)で二次処理し、海水で希釈して海洋に放出しようとしている汚染水には、公表されているトリチウムや放射性炭素などを含む64の放射性核種だけではなく、もっともっと様々な放射性核種が含まれています。
 そもそも発電のために原子炉内で核燃料のウラン235が発生した中性子により核分裂すると、数百の放射性核種が生成します。これらの中には64核種以外のジルコニウム93(半減期153万年)なども存在します。核分裂による生成物だけではありません。ほかにも、ウランが発生した中性子を捕まえてプルトニウムなどになります。いわゆる超ウラン元素です。
 このようにして生成されたプルトニウムやアメリシウムなどは、公表されている64の放射性核種に含まれています。しかし、同じように生成された半減期が非常に長いウランの様々な放射性核種や、ネプツニウム237などは含まれていませんが、確実に汚染水中に存在しています。
 また原子炉を構成する種々の材料が原子炉の中で発生した中性子によって核反応を起こし、コバルト60やニッケル63などが発生しています。これらは放射化生成物と呼ばれています。
 コバルト60やニッケル63は先の64の放射性核種に含まれていますが、同じように放射化で生成する半減期の長いカルシウム41や塩素36などは汚染水に含まれていても、64核種には含まれていません。
 コバルト60はかつて敦賀の海で、原子力発電所の排水口付近の浦底湾のムラサキイガイから検出されて問題となりました。これは原子力発電所の排水に含まれていた微量のコバルト60がムラサキイガイに生物濃縮されたために起きたことです。

 こうして生成した放射性核種は、半減期が短いものから非常に長いものまで様々です。半減期が数時間以下の寿命が短いものは、既に消滅してなくなっていますが、半減期が数年、数十年、数万年、数十万年、数百万年といった放射性核種がまだまだたくさん残っています。
 これらは日々、地下水と接触して、今も汚染水の中に溶け出しています。地下水に溶けやすい放射性核種はもちろん溶けて存在していますが、溶けにくい放射性核種も細かな微粒子となって浮遊していたり、コロイド状態で存在していたりもします。ですから公表している64の放射性核種だけではないのです。
 アルプスが正常に機能すれば、そこそこに放射能を取り除けると思いますが、それでも放射能をゼロにはできません。二次処理を行ったとしても、汚染水中の放射能をゼロにすることはできないのです。もちろんトリチウムはまったく取り除けません。
 
 海に放出される放射能が放出の基準値以下であったとしても、海産生物はそれらを濃縮します(生物濃縮)。汚染水が海に放出されれば、たとえ基準値以下の放出であっても、福島の豊かな海が放射能で汚染されることは容易に予想できます。
 それに濃度が最も高いトリチウムは、規制値以下に薄めて放出しても、生物への安全性が保証されているわけではありません。最近の研究では、体内に取り込まれた場合、特に脳細胞への悪影響が危惧されています。
 こうしたことから、私は汚染水の海洋放出には大反対です。安全で安心な福島の海からの恵みを将来にわたって届けていただきたい、と願っています。
 燃料デブリなどを一刻も早く地下水と接触しないようにして新たな汚染水の発生を防ぎ、すでに生成してしまった汚染水は福島第一原発や第二原発の敷地内での可能な限りの陸上保管、コンクリートやモルタルで固化する手立てなどを考えるべきです。

(寄稿)

 特集 小さな旅 城下町 白河と棚倉