日々の新聞

417号
2020年7月31日

ピーター・スピアーの『雨、あめ』より

 

あめ あめ いろんなあめ

 あめ あめ いろんなおとのあめ

 はっぱにあたって  ぴとん
 まどにあたって   ぱちん
 かさにあたって   ぱらん
 ほっぺたにあたって ぷちん
 てのひらにあたって ぽとん
 こいぬのはなに   ぴこん
 こねこのしっぽに  しゅるん
 かえるのせなかに  ぴたん
 すみれのはなに   しとん
 くるまのやねに   とてん
 
 あめ あめ あめ あめ
 いろんなおとのあめ

 詩人で童話作家の岸田衿子さんの詩「いろんなおとのあめ」。雨のしずくがいろんなものにあたった音をあらわしている。耳をすましても聞こえにくい音もありそうだが、そんなふうに聞こえそうだからおもしろい。
 雨が多い日本は、雨の擬音語が豊かだ。降り始めはぽつぽつ、ぽつりぽつり、ぽつんぽつん。雨粒がまばらなら、ぱらぱら、というのもある。細かい雨が辺りを湿らせるのは、しとしと、しっとりと。雨脚が強まるとざーざー、じゃんじゃん、激しく降りそそぐのはざーっ。長雨が湿っぽく降るのはじとじと、雨だれが軒から落ちるのはぽたぽた、ぽったんぽったん。
 北原白秋が作詩、作曲は中山晋平の童謡「あめふり」では、ぴっちぴっち ちゃっぷちゃっぷ、と表現している。そういえば、題名は忘れてしまったが、ぽったんぽたりこ雨だれさん、ぽったんぽたりことんとんとん、などと子どものころに歌った記憶もある。
 日本には雨をあらわす多種多様な言葉がある。万物をうるおし育む慈雨、田植えに必要な雨は水取雨(みずとりあめ)、長い日照りのあとに降る恵みの雨は喜雨など、稲作中心の農業をしてきたからこその言葉だろう。青葉にそそぎ降り、よりつややかにする初夏の雨は翠雨(すいう)、同じ意味で若葉雨、緑雨などもある。なんともきれいで、雨に色彩を感じる。
 春の花が咲いているころに降る雨は華雨、菜の花が咲くころにしとしと降り続く暖かい雨は菜種梅雨。花時の雨は、咲きそろった桜の花に降りかかる無常の雨のこと。梅雨も、梅雨入り前に雨が続く状態を走り梅雨、梅雨の終盤に雷をともなって激しく降り続く暴れ梅雨、ひときわ強く降る最終期の送り梅雨など、いろいろな雨の姿がある。
 七夕に降る雨は酒涙雨(さいるいう)。雨で逢えなかった織姫と牽牛の悲しみの涙雨などといわれている。天泣(てんきゅう)は晴れわたった空から降る雨、神立(かんだち)は夕立、雷雨のことで、白雨は雨脚が白く降る夏の夕立のこと。名前を眺めていると、その風景が浮かんでくる。
 秋の長雨は秋湿り、冷雨は冷え冷えと降る晩秋の雨。初冬の晴れた空に風にのって細やかに舞い降りてくる小雪や小雨を風の花、大晦日に降る雨は鬼洗いなどと呼ぶ。地方によって独特の呼び名もあり、雨の名前は数えきれない。先人たちの感性にふれ、その名に秘められた思いを想像しながら、声に出して言ってみる。
 
 雨の日、聞こえてくる音に耳を傾け、光景を見つめる。その時々、違って聞こえ、光景と名前が結びつく。時にはジーン・ケリーの歌声が聞こえてくるかもしれない。

 特集 Rainy day