日々の新聞

555号
2026年4月15日

    だれもがだれかを想った時間

 3月半ばに、いわきアリオスの大ホールで「レクイエム」コンサートが開かれた。13回目になるNHK交響楽団いわき定期演奏会にいわき市民レクイエム合唱団が共演し、震災・原発事故から15年という特別な演奏会に仕立てた。
 プログラムは、初めにモーツァルトの「アダージョとフーガハ短調K546」で追悼の献奏をして、次にプロコフィエフの「交響曲第一番『古典』op.25」。これは四楽章を通して、ありし日の暖かな家庭の風景をイメージさせ、そしてモーツァルトの「レクイエム」は、亡くした大切な人をすぐそばに感じさせた。
 アンコールは中学・高校生の合唱部も加わり、モーツァルトの「アヴェ・ヴェルム・コルプス」で幕を閉じた。

 映画「アマデウス」の影響もあるのか「レクイエム」というと、1791年の夏から冬のモーツァルトの姿が浮かぶ。ある日、灰色の服を着た男が訪れ、名前も目的も明かさず「レクイエム」(死者のためのミサ曲)を書いてほしいと、前金を置いて帰って行った。
 そのころモーツァルトは体調がすぐれないなか、頼まれていたオペラを1つ書き上げ、オペラ「魔笛」を仕上げて、9月下旬に初演を終えた。それから、ようやく「レクイエム」に取りかかったが、体が衰弱していて一向に進まなかった。11月下旬には起き上がれず、横になったまま曲作りを続けた。
 自身の死が近いことを感じていたのだろう。弟子のジュスマイヤーに繰り返し「レクイエム」の構想や進み具合を説明していた。亡くなる前日の午後、見舞いに来た友人たちといつものように、書きかけの「レクイエム」を歌った。曲はまだ半分ぐらいしか出来ていなかったという。そうして12月5日深夜、35歳の生涯を閉じた。

 その日、アリオス大ホールのステージではホルンやファゴットが奏でる葬送の旋律が響き、合唱団が「主よ、永遠の安息を」と歌い始め、自然でやわらかで、清らかな空気が客席を包んでいった。「レクイエム」は八セクション・全十四曲で構成されている。キリエ、それから「怒りの日」など6曲からなるドラマチックな核心部…アニュス・ディ、コンムニオ。恐怖や不安、救済の祈りが混在し、重厚で繊細で、やさしさと荘厳さが漂う美しいハーモニーを聴かせた。
 約90分の演奏。だれもがだれかを想い、胸が熱くなった。アンコールの準備をしている間、指揮者の沖澤のどかさんが「同じ東北の人間として、東北の地でレクイエムを演奏できたことは感慨深い。みなさんが十五年、どんな思いで生きてきたか。音楽の普遍性によって、まったく違う人間が一緒に感動した特別な体験でした」と話した。
 それぞれの宝物になる時間だった。沖澤さんやN響の団員、ソリスト、中学・高校生、そして合唱団の最後の人が舞台のそでに入るまで、客席から拍手が送られ続けた。

 特集 レクイエム演奏会

 


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