オンブズマン

 紙面を読んで From Ombudsman504 

 

画・松本 令子

 

 平野 雅彦

 「日々の新聞」489号の特集に圧倒された。美術家・蔡國強を特集したこの号では、いわき市の四倉海岸で起きた「美術史上の事件」ともいうべき取り組みを、蔡の氏と育ちや思想を交えながら存分に伝えている。識らなかったことも多く、記事のおかげで蔡への興味が再燃した。結論を先に言ってしまうと、わたしは蔡國強の火薬を用いた作品を天空に活ける「いけばな」だとみている。
ところで、現代を代表するいけばな作家に中川幸夫がいる(2012年没)。白菜を丸ごと活けた「ブルース」。今まさに朽ち果てようとしている花の雄しべと雌しべを活けた「チューリップ星人」。900本のカーネーションをガラス器に詰めて画仙紙にひっくり返し、その真っ赤な滲みで創る「花坊主」などが代表作だ。中でも、2002年に信濃川の大地を花器に見立ててヘリコプターからチューリップの花びら百万枚を撒き(活け)、その下で舞踏家・大野一雄が渾身のダンスを踊ってみせた「天空散華」は世界的に大きな話題となった。
 その中川に「花楽」というシリーズがある。花の液を画仙紙に垂らし込み、水を含ませた海綿をその上に置いていき、滲みによって生まれる文様と色彩が創り出す世界を作品とする。だが、花の汁で描かれた故に、その滲みはやがて支持体から姿を消していく運命にある。縁あって花楽を手にした者は、時世時節に眺めながらも、この刻一刻と変化していく事態を引き受けていくこととなる。花楽は生と死をその内に抱え込むいけばなそのものなのである。わたしは幸運にも2005年に中川の展示をプロデュースする機会に恵まれ、薫陶を受けた。
 2023年6月26日、四倉海岸で行われた蔡の「満天の桜」は、まさに大空に活けられた巨大な花である。そののち再びこの地を訪れた者は、あの日あの時、この蒼穹に咲いた満開の桜を思い浮かべることになる。更にはそれが、かつてこの地に咲いていた桜の面影と重なることもあるだろう。
蔡と中川に交友があったとは聞いてはいない。ただ、どちらも同時代の、一瞬に永遠を創り出す作家である。若き中川が池坊を飛び出したのと同じように、蔡の創作には中国社会からの開放という反骨精神が垣間みえる。

(アーツカウンシルしずおか特別相談員)

 

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