オンブズマン

 紙面を読んで From Ombudsman432号 

 

画・松本 令子

 小林 一

 大震災から半年くらい経った頃、大学以来の友人から声をかけられ、米国のエネルギー省と協調して福島第一原発の除染・廃炉業務に取り組もうとする、米国のエンジニアリング会社に協力したことがある。しかし日本側の対応は、基本的に「自分たちでできる」「自分たちの企業秘密をさらしたくない」というもので、東電と米企業との業務提携はうまくいかなかった。
 再臨界のリスクを思えば、この問題は日本だけでなく、米国の安全保障にもかかわる大問題で、2012年6月に駐日首席公使が「米国は廃炉に全面協力をする」とのメッセージを発表した。それを受けてか、その年の9月、東電も米エネルギー省に汚染水や廃棄物処理についての研究業務を委託し、膨大な報告書が提出された。米国側は、除染、廃炉について、日米協力による早急な着手を求めたが、日本側の基本的な考えは同じで、動きも鈍かった。その年の12月、政権交代で自民党の安倍内閣になっても状態は変わらなかった。
 翌2013年7月、業を煮やしたルース大使の陣頭指揮で「Acquisition, Program and Project Management & Workshop」というセミナーが、関係省庁の幹部を集めて経産省で開かれた。セミナーでは「除染・廃炉における調達からプロジェクトマネジメントまで米国流を学ぶべき」との提言がなされ、日本の意思決定構造の問題にまで言及した。それでも結果は変わらず、あのとき日米協力に踏み込んでいればと、今も思う。
 当時の民主党政権の幹部は反米―反戦・平和を叫んだ全共闘世代で、米国に委ねることに潜在的抵抗感があったのではないか。一方安倍政権も、表向きの同盟関係の半面、自主憲法を唱えていて、なるべく米国の世話にはなりたくないという本音があり、除染・廃炉事業を米国に委ねるという合理的な判断ができなかったのだと思う。
 振り返ると米国は、東京在住の米国人に対し帰国の勧告をするなど、原発事故直後から、大変な危機だという認識を持っていた。当時の日本政府の見解・発表とはずいぶん違うものだと感じたものである。今後の日米関係と、危機管理のガバナンスを考える教訓として、当時のやり取りについて、日本側だけでなく「同盟国」米国側の状況を明らかにしてほしい。本紙にも掲載されたトモダチ作戦での米軍兵士の被曝者や裁判のことも同様である。
 米国でのSNSを含むなんでもありの議論が、実際に政局や政策が動かしているのをみると、日本でも「疚しき沈黙」を破って真実や意見を公開して物事をすすめるのが今必要ではないか。「万機公論に決すべし」。令和のガバナンス・DX(デジタルトランスフォーメーション)革命に期待したい。現場密着で息の長い取材が可能なローカルメディアの本紙の役割も大きい。

(一般社団法人アジアサイエンスカフェ会長・川崎市在住)

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