紙面を読んで From Ombudsman | 412号 |
藁谷 和子
佐藤 明子
戦争とまで例えられるコロナ禍の心配の中、日々の新聞が届けられました。第410号の大越さんの、NY公共図書館「まちの文化を育むために人々を支援する」の見識の広さに感銘を受け、どんな状況にあっても人間性を失わない精神の支柱になるものは、文化であることを示されました。
庭に鉢植えの熊谷草が静かに咲いています。昔、深山に群生していたものを荒らされ、絶滅寸前を憂えた地元の方々の努力によって保護されているのを預かっています。海に近い我が家は、日中でも涼しい気候が深山に似ているものか、機嫌よく育ちました。熊谷草の名は平家物語一の谷の合戦での、熊谷直実と平敦盛の有名な場面 に因んだもの。敵の若武者を組敷いてその首を刎ねようと兜をはらう刹那、敦盛の美しい顔。それを刎ねなければならない因業、そうしなければ生きていけない不条理。世の無常を胸に深く刻まれた直実は、その後出家。熊谷草は、膨らんだ形の唇弁を武士が背中に負った母衣に見立てて名付けられたものです。
敦盛の懐から一管の笛が現れました。鳥羽院から賜った「小枝・青葉の笛」。
昨夕、敵陣からの妙なる調べは、敦盛の奏したもの。笛は古来より魂鎮めの音色といわれ、阿鼻叫喚の戦場にあればこそ、神への祈り、慰め、赦しを調べにのせたものでしょうか。清く澄んだ濁りない音色は心頭をすすぎます。
熊谷草と対をなして敦盛草もあります。少し華やいで可憐なさまは、若くして逝った美少年を偲ばせ涙を誘います。
(篠笛いわき濤笛会々長 山口華鏡)
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