紙面を読んで From Ombudsman | 416号 |
藁谷 和子
佐藤 明子
震災以降、様変わりした防波堤を見上げては、かもめの視線~相変わらずいわきの海は美しい~の言葉に励まされています。かもめよ、そこから見える海は今でも碧く、白砂青松と謳われた砂は白く、松林は濃緑ですか。磯に咲く浜菊はたくさん見えますか。
吹上菊の別名を持つ浜菊は、本州の海岸の崖や砂丘に生えるとされ、いわき市でも合磯海岸、小浜海岸、永崎海岸、三崎公園等の崖に広く群生しています。
秋風の吹上に立てる白菊は 花かあらぬか浪の寄するか~菅原道真・古今和歌集。清楚で気高く、海から吹き上げる風に耐えて咲く健気さを古くから愛でられてきました。東京護国寺の秋に催される安藤家御家流茶道の席には、胡銅の花入れにと所望されることが間々あり、お国の花便りとして披露されます。辺りをはらう存在感と優美なエレガントさは茶席を格調高く飾ります。篠笛の曲に「秋風」「菊の花」「わたつ海」の調べがあることも、道真公のお歌を荘厳するご縁があるものと自負しております。床に道真公の掛物をかけ、床前に吹上菊を活け、名香白菊を燻らせ、呼び出しに笛を吹く~憂き世離れのそんな優雅な席を披いてみたいものです。
ここにきてウイズ・コロナの話題が取りざたされるようになりました。東京一極集中による脆弱性から、感染リスク、災害リスクの恐怖を実感し地方回帰を考えている人は増えているといわれています。新しい働き方、住まい方改革として、逆参勤交代を提唱する向きもあります。そうなると清涼な広い空間が確保できる地方に住まうことになり、土地の伝統文化、歴史、習慣を学ぶ機会が必要になるでしょう。その学びの道しるべとして、新聞に代表されるマスメディアに求められる役割は小さくありません。地元の社会規範を示しつつ簡素で静寂な地方が見直されれば、大都会とのバランスが図られ、結果として災禍の分散につながり、被害を小さく抑えることになります。謙遜はしても卑下することなく、地元の歴史文化に誇りを持ち、大切に守り育て広めていくことが、地方の魅力を創り上げていくことに他ならないと考えます。
(篠笛いわき濤笛会々長 山口華鏡)
そのほかの過去の記事はこちらで見られます。