omb445号

 紙面を読んで From Ombudsman445号 

 

画・松本 令子

 

 嶋崎 剛

 「心を動かすには芸術が役に立つ」、思えば日比野さんのいわき市立美術館での芸術的行為に心を動かされ「日々の新聞」は誕生したのであろうし、自分もまた数々の芸術と呼ばれるものに心を動かされてきた。だが8月15日という終戦の日に発刊されたこの号を読みながら、このタイトルと文中のあるセンテンスに違和感を覚えた。
 日比野さんの文章はSDGsについて芸術家あるいは芸大教授としていかにそこに芸術を参画させるか、昔風に言うとアンガージュするかという内容でその事には異論はない。
 SDGsとは(持続可能な開発目標)で日比野さんは文中で「開発」という言葉を省略しているが資本主義の最終形態としての新自由主義経済は持続可能といえども「開発」の上に成り立っており、その事を忘れてはならないし外す事のできない言葉なのだ。あえて言えば、非現実な事であるが「開発」はやめなければならない。
 SDGsには17の目標があり、気候変動、環境問題、ジェンダー、貧困、教育等が含まれている。そして「開発」という言葉が、先進国と途上国、エネルギーと経済成長という問題の背後に核として存在している。「開発」し「生産」し「成長」することに変わりない。気候変動に関して言えばSDGsでは2030年頃に気温1.5度上昇は抑えられない。持続可能な新たな開発が新たに生産し成長するからである。鍵になるのはこれ以上の豊かさを求めない「脱成長」にシフトできるかどうかと言われている。
 「心を動かすには芸術が役に立つ」への違和感からある言葉が浮かんでくる。デザイン、広告、宣伝、メディア、プロパガンダ、洗脳、心の支配。戦争中、国民がこれらによっていかに戦意昂揚し、同調圧力に晒されることになったか。そして小説、詩、美術、音楽、映画が自ら進んであるいは利用される形で戦争に加担していったか、そこには「心を動かすには芸術が役に立つ」が間違いなくあった。
 文章後半の4段落目以降にもまた違和感があった。「心を動かすことが大事になってきます。そこで芸術の役割が出てくるのです。心を動かすことは芸術が人に及ぼす作用であり、芸術の得意なところです〜」。繰り返しになるがSDGs推進は必要であり、そこに芸術家が参加して行く事は良い事で異論はない。やがてサザビーズも無くなるだろう。アリストテレス以前より芸術は人の心を動かしその強度は計り知れないものがある。だがSDGsを推進するために心を動かすのは芸術ではない。それは「世界の真の有様、真の実態、真の現実を知ること」、それが人の心を動かし生活変容をもたらすのだ。カントの「もの自体」を考えてほしい。あなたと私が見ている空の青が同じ色であることは証明できない。芸術は我々の世界に超然と屹立しているものであってほしい。

(「備中屋本家斎菊」主宰)

 

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