紙面を読んで From Ombudsman | 448号 |

尾原 陽子
たしか今年の初夏の頃、ラジオ番組「今晩は 吉永小百合です」の一番最後に草野天平さんの「指ぬき」を小百合さんの朗読で聴きました。
一瞬のことだったのでもう1度じっくり活字で確認したいと思い、前号からさかのぼって日々の新聞を見ていくと、今年の2月28日号の『いつくしみ深き』の本の広告のところに「指ぬき」の詩がありました。
もうかなり前のこと、神田の古書店でたまたま目についた臼井吉見さんの『15年目のエンマ帖』を何げなく手に取りパラパラと見ていたら、そこに私の高校時代の担任で現代国語を教わった梅乃先生が、愛犬を抱いて着物姿で写っているモノクロの写真を見つけました。その時の驚きはものすごいものでした。
それからまた時が経ち、私が住んでいた中野の駅前の商店街に山のようにたくさん古書が置いてある店があり、そこで『〈挨拶〉草野天平の手紙』を見つけました。それが梅乃先生の自費出版だったということを後で知ってびっくりしたものです。
この2冊との不思議な出会いが、今となっては必然なことだったのではないか、と思わずにはいられません。
日々の新聞の至らない読者です。読み応えがあり過ぎる新聞で、身辺の雑事に追われて積ん読状態が続いていました。そんな中、『いつくしみ深き』の広告にとても魅かれています。天平さんの1篇の詩を取りあげて、それに添った何げない写真と静かに語られているコメントに感動を覚えます。
高校を卒業する頃は、梅乃先生のことは全く何も知らず、知っていることと言えば、ベートーベンとプレスリーが好きだということくらいでした。あの情熱的でやさしさの中にもきびしさのあった梅乃先生が、かけがえのない大切なものを抱えて生きておられるとわかったのは、かなり時が経ってからでした。
(船橋市在住)
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